心にきみという青春を描く



「立ち止まるなとは言わない。でも少しずつ前に進め」

しゃがんだままの先輩に、日向くんが手を差し出した。


「それが残された俺たちが葵を笑顔にできる唯一の方法だ」


先輩の頬に一筋の涙が伝った。先輩は日向くんの手を握った。引き上げるようにしたのは日向くんだけど、自分の足で立ったのは先輩のほう。


「あいつは言ってるよ。自分らしい絵を描けって。なににも縛られずに自由に楽しそうに描いてって言ってんじゃねーの」


日向くんはそう言って、歩きはじめた。遠ざかっていく後ろ姿を見ながら先輩がありったけの声を張る。


「……日向っ!!」

きっと言いたいことは数えきれない。でも、まずはこの言葉から。


「ありがとう」

日向くんは振り向かなかった。けれど、笑っているような気がして、先輩は涙を拭う。


「これからですね」

私は寄り添うように隣に並んだ。


ふたりの友情の行く先は分からない。けれど、お互いを強く認め合っているふたりなら、また繋がれる日が必ずくるだろう。


「葵は俺に描き続けてほしいって言ったんだ。描いていいのかな。なんにも考えずただ好きという気持ちだけで描いていいんだよね」

先輩は自分の手のひらを強く見つめていた。


「いいに決まってます」

それに、先輩と葵さんの繋がりもなくなったわけじゃない。ちゃんと好きなことで今も繋がっている。


そして、先輩の右手はきっと……遥か彼方にある未来も描けるはずだから。


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