心にきみという青春を描く



たしかに先輩なら実力も伴(ともな)っているし、高校生の一番を決めるコンクールに挑戦してほしいという気持ちはある。

けれど、先輩は中学三年の時を最後にコンクールには参加していないし、評価されたくないと言っていた。


「もちろん強制じゃない。でもこれからも絵を描いていくなら大きな経験になる舞台だと思う。どうする?」

先生が諭(さと)すように尋ねた。


先輩はきっとコンクールに出ることにも後ろめたさを感じていたのだと思う。自分だけが好きなことをしていてはいけないと、評価されることも遠ざけていた。

でも今は違う。

日向くんの気持ちや葵さんの意志。苦しかった過去から逃げるのではなく、向き合おうと決めた先輩の答えはひとつしかない。


「参加します」

その瞬間、窓からふわりと先輩の背中を押すような風が吹き抜けた。

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