心にきみという青春を描く
「でも……」
先輩の家がどこにあるか知らないけれど、遠回りだったら迷惑をかけてしまうかもしれない。
そうやって渋る私を見て先輩は肩にかけていた私のカバンを自転車のカゴへと入れた。
「いいから乗って」
急かされるように言われて、私は自転車の後ろへと股がる。
乗ったあとで股がる乗り方は女子として正しいのだろうかと考えたけれど、そんなことはお構い無しに「行くよ」と先輩はペダルを漕ぎはじめた。
ふたり乗りも、もちろん初めてなのでまた鼓動が少しだけ速くなる。
どこを掴んだらいいのか分からなかったので、私は先輩のパーカーを小さく握るだけ。コンクリートに映っている影さえも不器用で、自転車を漕ぐ先輩は影さえも大きかった。
「家どこ?」
「七丁目のホームセンター分かりますか?あの裏側です」
「本当?あそこよく行くよ」
私も日用品を買いにいったり、部活で使おうと準備した絵の具もそこで揃えた。
……そっか。先輩も行くんだ。
もしかしたら知らない間に会っていたりしたのかな。今度行く時は適当な洋服じゃなくて、ちゃんとしたものを着ていこう。
いつ先輩に会ってもいいように。
「……私、重くないですか?」
「重くないよ。むしろ乗ってる?」
「はは、乗ってますよ」
やっぱり先輩の空気は暖かくて心が和む。
光に当たるとさらに茶色く見える髪の毛も、襟足がくるんと丸まっているところも、サイズ感が大きなパーカーも、学校指定じゃない星マークのスニーカーも全部ぜんぶ、ああ、なぎさ先輩だなあって、ほっこりしてしまう。