心にきみという青春を描く
「先輩、今日も青いひまわりを描いてましたね」
私にデッサンを指導してくれたあと、先輩はまた猫背になりながら青色の絵の具がついた筆を何度も紙の上で動かしていた。
美術室の壁には油絵や日本画と、おそらく卒業していった人たちの作品が飾られているけれど、なぎさ先輩が描いている絵は他の人たちにはない魅力がある。
どこが、と聞かれると上手く言えないのだけど、先輩が持つ感性や雰囲気が絵に表れているのだ。
「青いひまわりって、本当にあるんですか?」
ひまわりにも色々な種類があるのは知っているけど、青色なんて見たことも聞いたこともない。
「さあ、ないんじゃない?俺が勝手に描いてるだけだし」
先輩の口調がどこか他人事のように感じたのは気のせいだろうか。
「いつ頃、完成予定ですか?」
私からすれば、もう十分過ぎるほど絵は書き込まれているように思えるけど、先輩はきっと明日も青いひまわりに絵の具を乗せる。
「完成はしないよ」
「……え?」
「多分、一生しない」
先輩とのふたり乗りは楽しかったし嬉しかった。
けれど、後ろ姿しか見えないから、先輩が今どんな顔をしているか私には分からなかった。