心にきみという青春を描く
男の人はそう言ったあと、背中を伸ばすようにして立ち上がった。「んー」と、両手を突き上げながら丸まっていた腰を左右に動かしている。
床に這いつくばるように絵を描いていた時は分からなかったけれど、立ってみると私より頭ひとつ分以上背が高い。
開いている窓から風が吹くたびに、薄茶色の髪の毛がさらさらと揺れて、肌が透き通るように白く感じるのは、同色のプルオーバーパーカーを着ているせいだろうか。
「名前は?」
つい見とれてしまい、反応が遅れてしまった。
「つ、月岡なつめです!」
「へえ」と、言いながら近づいてくる足音。
「なつめか。可愛い名前だね」
腰を屈むようにして言われて、また顔が熱くなる。
……とても綺麗な顔。こんな人は同中にもクラスメートにもいなかった。
「もうすぐみんな来るんじゃないかな。俺はうるさくなる前に帰ろうかな」
「え、帰るんですか?」
これから部活が始まるのに?
ふあ、と眠そうにあくびをしたあと、再びコキコキと今度は首を鳴らす。「じゃあね」と、背を向けた瞬間に「あ!」とひき止めるような声を出したのは私。
「ズボンに絵の具ついてます」
男子の制服は学ランで黒。上はパーカーを着ているけれど、下はちゃんと制服のズボンを履いているようで、黒地に白色の絵の具はかなり目立つ。