心にきみという青春を描く
ホームルームが終わったあと、私は女子トイレへと向かった。ボサボサになった髪の毛を結び直すためだ。
廊下を歩きながら緩んだゴムをほどいて、手ぐしでなんとか絡まった髪の毛を整える。
すると丁度、階段からなぎさ先輩が降りてきて目が合った。
「おはようございます」
一応挨拶したけれど、髪の毛を直したあとに会いたかった。いつもなら返事をくれる先輩が、挨拶すら返してくれない。
「……なぎさ先輩?」
不安になってもう一度声をかけると、何故か先輩はハッとしたような表情をした。
「なんだ、なつめか。髪の毛下ろしてるから一瞬、誰だか分からなかったよ」
無視されていたんじゃなくて安心したけれど、髪型が違うだけで識別できなくなるなんて、私はよっぽど特徴がないらしい。
先輩にとってふたつ結びのおさげとしてインプットされているだと思ったら少し複雑な気持ちになった。
「髪の毛下ろしてるほうがお姉さんみたいに見えるよ」
先輩が無邪気な笑顔で私の顔を覗きこんでくる。
「別にお姉さんじゃなくていいです!」
私はブスッと頬を膨らます。どうせ私は子どもだよ。しかも中学一年くらいに見えるんでしょう?
「なんで怒るの?」
「自分の胸に手を当てて考えてください」
「うん。でも分かんない」
本当に胸に手を当てている先輩。先輩に悪気はない。ただ一瞬でも私と分かってもらえなかったことがショックだっただけ。
八つ当たりしても仕方ないと、私は気持ちを切り替える。