心にきみという青春を描く
「い、いや、その……」
だって私の心臓の音が聞こえてしまいそうだから。
「ちょっと確認してよ」と、先輩がスマホの画面を傾けてきて、その距離は肩が触れ合うほどだった。ドクンドクンと鳴りやまない鼓動の扱い方を私は知らない。
「せ、先輩、近いです……」
画面にはたしかに三宅さんが寝ている姿が映っていたけれど、もうそれどころじゃない。
「近いとダメなの?」
ダメです、と言いかけて。だけどダメだとは言いたくなくて。私はただ顔の赤さを隠すのに必死だった。
そのあと先輩は私の気持ちとは裏腹に「写メ送っておくよ」と言いながら、再び外階段の踊場に寄りかかって早くも寝る準備。
……あと五分ほどでチャイムが鳴るっていうのに呑気だな。まあ、私も先輩がここにいるのなら、あまり教室に戻る気分にはなれないのだけど。
先輩の今日のパーカーの色は黄色。こんな派手な色を着こなせてしまうのは先輩ぐらいで。尚且つ左腕には文字盤が丸い腕時計をしていて、とてもオシャレ。
……男の人の腕時計って、なんかいいな。
今までそうやって思ったことは一度もなかったのに、先輩がしてるとすべてが良く思えてきてしまう。
「俺のこともスケッチする気?」
「え?」
「今日はやたらと視線を感じるんだけど」
フードをくいっと指で上げたその口元は笑っていた。
私は「すいません」と言いながら、恥ずかしさでパタパタと手で風をつくる。
傍にいるとドキドキして苦しくなる。
でも離れたくはない。
それが〝好き〟ということなんだって、先輩に片想いをしてから気づく感情がたくさんある。