心にきみという青春を描く
「ねえ、土曜日予定空いてる人いる?」
その日の放課後。各々自分の作業をしている中で、詩織先輩が言った。
「もし時間が合えばみんなで美術予備校に見学に行かないかなって思ってるんだけど」
……美術予備校?私もあまり知識はないけれど、たしか美大や芸大を目指すための学校だと聞いたことがある。
「見学?なんで急に?」
なぎさ先輩が紙パレットに絵の具の準備をしながら聞く。
「色んな専攻がある学校だし、生徒はみんな私たちと歳が近い人ばかりだから、部活だけじゃ感じられない刺激も受けられると思って」
美大なんて本当に才能がある人しか行けないイメージだから私には縁遠いものだけど、そこに向かって頑張っている人たちが通う美術予備校はたしかに行ってみたい気もする。
「僕はパスです。興味ありますけど、漫画の締め切りがヤバいんで」と、天音くんは不参加。
「はいはい!俺は行く!」
詩織先輩からの誘いなので、松本先輩は即答で参加。私も便乗して「行きます」と手を挙げて。残るはなぎさ先輩だけ。
「俺はいいかな。美大目指してないし、刺激も別に欲しくないっていうか……」
「え、なぎさ先輩行かないんですか?」
私は食いぎみにガッカリしてしまった。先輩がインドア派なのは見れば分かるし、休日に出掛けることもあまり好きじゃなさそうだけど……。
「なつめは俺に行ってほしいの?」
私の表情を見て先輩がクスリとしていた。
「……できれば行ってほしいです」
顔でお湯が沸かせるぐらい熱い。でも素直に認めたおかげか先輩は悩みながらも「仕方ないなあ」と、一緒に行ってくれることになった。
「じゃあ、芦沢くん以外の人は参加ね。待ち合わせ場所はあとで連絡するから」と、詩織先輩は珍しく部活中にスマホを触って誰かにメッセージを送っていた。