雨とさえずり
第二章
嫌な夢を見た。私がまだ中学生だった頃の夢だ。その頃、とにかく愛が欲しかった。幼少期に母と死別し、父親は多忙で出張が多く、家にいるはずの日も忙しなくしていた。今もマンションに戻れば一人なわけで、とにかく寂しさばかりが鬱積していた。
だから、もしかしたら恋とかいうものの存在が、私の心の隙間を埋めてくれるかもしれない。そう少しだけ期待して、告白してくる男と片っ端から付き合ってみた。寄ってくる男は皆私を好きだとか言ってたっけな。それでも私の心は冷え切ってきた。一体私の何を知って、「好き」だなんて言えるのだろうか。見た目には他の人より自信があったかもしれない。亡き母の血による大きなつり瞳と長いまつげ、胸下まで伸ばされた少しくせのある栗色の髪。でも、私を好きという人は、たいてい話したこともないような人だった。
「仁科さん」が「まひる」になって、二人で出掛けて手を繋いだりして、そこに何の意味があったのだろうか。中学生の恋愛に、幼少期からの欠陥である愛などという重いものを求めるのは無謀だったのかもしれない。それでも、自分のしたことはどう頑張ったところで正当化出来るものではない。付き合っている人の居る先輩や、部活の後輩が片想いしていた後輩だけでなく、妻子持ちの先生とも付き合った。思い出すと今でも過去の自分を呪いたくなる。男遊びをやめてから一年以上経った今でも、夢の中でさえ忘れることを許してくれないのだ。今日もそのせいで、目覚めは最悪だ。でも、そんな私の心とはうってかわって、朝から嫌味なくらいに晴れている。梅雨時期の空とは思えないほどの快晴だ。たまたま7時間授業の上に体育があるから荷物は多く、傘を持って行くのが億劫だった。
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