あの日、もう一度

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『このネクタイ、私が一目惚れして買っちゃったんだけどね。似てるの、あの海の色に。』

休日は二人でドライブするのが好きだった。

海まで片道一時間弱、他愛もない話で盛り上がったり、各々(おのおの)の時間を過ごす。

海風を含んで緩くウェーブを描く彼女の髪が好きだった。

『なんでだろうね、ここに来ると嫌な事も全部忘れられるの。』

あの日を(いろど)ったネクタイを首に締めて、家を出た。

君が好きだった花を買う。白く美しい百合の花。

その純粋な色が酷く、憎らしく愛おしい。



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