見て、呼んで、触れて

「はい、これがメイクの道具やお」
うちは叶夜に、今あるメイク道具を全て渡す。
「・・・こんなに?」
「あ、うちはいらんって言ったんやお?やけど依恋が・・・」
自分で口にして思った。
一体どれだけうちは依恋に助けて貰っとるんや。
いい加減自分にイラつきを覚える。
「じゃあ、そこ座って。俺がメイクしてあげる」
言われた通り、叶夜の向かい側の椅子に座る。

「姫莉のメイクは何時も中途半端。メイクするなら、ちゃんとして・・・」
「う、うん」
いきなりダメ出しされるとは思わず、焦る。
「姫莉はギャル系のメイクしてるけど正直似合わない」
慣れた手付きで下地を作り、うちの顔を彩っていく。
「マリアは何時もナチュラルメイク。ピンクを主に使う。マスカラはしない。アイラインも引かない。まつ毛が長いし、目が大きいからそんな事しなくても良い。チークは薄く。あくまでも本来の顔を生かすだけ」
たったの5分足らずでもう、メイクはほとんど出来ている様だ。
「リップは・・・」
叶夜は一つ一つのリップの色を確かめる。
「リップはあまり色が付いていない方が良い。薄い桜色とかが一番良い」
うちの顎に手を添え、リップを塗る。

「顔はこれで良い」
叶夜に鏡を渡され、鏡に映る自分を見つめる。
うちやけどうちやない。
メイクの仕方を変えるだけで、人格も変わってまったみたいや。

「次、髪やるから。道具は?」
「あ、そこの棚にあるよ」
うちはテレビの横の棚を指差した。
叶夜はその中からコテを取り出した。
「姫莉は何時もヘアアイロンでストレートにしてるだけだよね?」
「うん・・・」
なるべく分からない様にしていたつもりやったのに、叶夜は気付いとったみたいや。
「マリアは何時もゆるく巻いていた。毎日髪型が違っていた」
「毎日!?」
叶夜はうちの髪にどんどんカーブを付けていく。
「連続で同じ髪型にはしない」
毎日同じ髪型のうちがそんな事出来るんかな?
「まぁ、姫莉はそんな事しなくても良い」
髪を全て巻き終え、コテを机の上に置く。
「右から少量の髪を取って、左に向かって編み込んでいく。これなら簡単だし、見栄えも良い」
叶夜はそう言ってピンで終わりの髪を止める。
うちは鏡を髪に向け、まじまじと見る。
編み込まれた髪はまるでカチューシャの様だった。
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