☆君との約束
「ごめんね」
「……え?」
「こんな家に、生まれてごめん」
両親から生まれたことを、後悔したことは無い。
でも、この家に生まれたことは生涯、悔やむ。
「莉華にしなくていい、苦労をさせる」
あの時、母の本当の問いかけの理由がわかった。
自分は、母の幸せならばいいと思ったのに。
何年もたって、後悔する日が来るなんて。
「……私は、平気だよ」
妊娠しないこと、その事実は自分的にはどうでも良くても、家族を失っている莉華からすれば、苦痛だ。
周囲に責められ、自分を責め、そして、身を滅ぼしていく未来を予想できるくらいに、莉華の本来の明るさはこの家の闇に侵食されていた。
「どの家にお嫁に行っても、結局、苦労するんだもの。それなら、私は……陽向のそばにいたいよ」
でも、君は優しいから。
自分の弱い所を、ひた隠しにする。
内緒にして、見せてくれない。
そんな君に、また、愛しさが募る俺は、本当にどうかしている。
あんなにも興味のなかった女というものに、こんなにも恋焦がれて、守りたいと願い、執着するようになるとは。
「……っ、莉華は、強いね」
「え?」
君を手放せない。
手離したくない。
この世界のどこかで君が笑っていてくれるのなら、手放してもいいと思うこともあるけれど、それでも、手離したくないという自分の欲求が、常に勝って。