☆君との約束
君がいなくて、酷く寂しい side33歳の陽向
「……っていう、お話」
優しく微笑んで、聞かせる。
十三歳の、年の離れた妹に。
自分の、娘でもおかしくない妹―千華(チカ)に。
「……陽向兄、泣いてもいいんだよ?」
今年、中学生になった千華は気遣うように、頬に手を伸ばしてくる。
母さんに似て、美人に育ったものだ。
莉華が、とても可愛がりそう。
「泣かないよ」
「どうして……?」
「僕が泣いたら、莉華が心配しちゃうから」
「……」
「千華は覚えてないかもだけどね、生まれたばっかりの千華をとても幸せそうに抱っこしてたんだよ。……あの時は、本当に幸せだったなぁ」
昔を、十三年前を思い出して、懐かしくて、哀しくて。
今、僕の隣に君はいない。
僕も、三十三歳になってしまった。
君が逃げてから、もう、早六年。
「……莉華義姉さんに、話しても思い出さない?」
「うん。全然、僕らのことは覚えてないみたい」
「この家が……莉華義姉さんを、そうしたんでしょう?」
「うん」
莉華が壊れた時、まだ、生まれたてだった千華。
何も覚えてない。
でも、莉華に会わせたことはある。
『陽向の妹?』
優しく、何も変わらない笑顔で、莉華は笑っていた。
何も覚えていないのに、それなのに、名前を呼んでくれる。
それだけで、今の自分は満たされている。