☆君との約束
『莉華、二人で引っ越そう。どこか、遠い所へ』
この家の手が、届かないところへ。
それが、二十六歳の時。
海外を飛び回りながらも、協力してくれると言った両親の手を借りて、二人でこの家から出て、外で生きていく準備を続け、僕は仕事に精を出す毎日。
『陽向……?無理しちゃ、ダメだよ』
俺のことを心配そうな目で見てくる君がたまらなく愛しくて、
『大丈夫だよ。おいで、莉華』
君がいれば、何もいらなかった。
抱きしめて、キスをして、愛してると囁いて。
―そんな時間が、幸せで。
ようやく、飛び立つ日。
たまたま、飛び込んできた緊急の内容。
御前の、他の女達の目に触れないように隠し守った半年。
莉華は、本来の元気をある程度、取り戻していた。
けれど、出ていく直前に舞い込んできたその仕事は意外と厄介で、莉華を長時間、1人にしてしまうと思った。
だから、信頼していた人間に任せたんだ。―それが、間違いとも知らずに。
任せたのは、古くから家に仕えている女性だった。
使用人頭ともされていて、とても優秀だった。
誰にでも平等で、仕事が完璧だった彼女にも、大切なものはあったのに―……。