☆君との約束
当たり前の幸せ
「そうそう。そこはそう折ってね―……」
優しく、丁寧に、魅雨が折り紙を二人に教えてる。
その三人の微笑ましい光景を、莉華も笑って眺めてる。
いつもと変わらない日常。
愛しい、人の微笑み。
(……うん、幸せだ)
これだけでいい。
大きなことは、何も望まないから。
病室の端で、ずっと写真を撮ってたけど……いい加減、自重。
今日は本を持ってきたから、それでも読んで時間を潰そうと思う。
けれど、本を開いてすぐ、莉華が無意味に天井に向かって手を伸ばし、そして下ろし、また魅雨たちの方を見て優しく微笑むから、その光景がとても美しかったから、自分は結局本に集中できなくて、本を閉じる。
次は何をするのかなと思ったら、この間渡した俺のネックレス型にした指輪を指先で弄りだす。
いつの間にか、莉華の首元に下がっているそれ返してとも言えず、ただ、それを見つめる莉華の瞳が好きで、今日も俺は彼女を見守る。
幸せな昼だった。
いつもと変わらない日だった。
君は僕のほうを見ることはなかった。
それでもよかった。
君が微笑んでいるだけで幸せだった。
この日常なら、本当に何十年続いても良かった。
あの日、相馬がいてくれてよかった。
物言わぬ莉華に、ただ感情をぶつけていた俺を止めてくれた存在がいてよかった。
相馬がいて、依がいて、俺は幸せだった。
一人じゃなかった。
結局、俺は恵まれていた。