料理研究家の婚約レッスン
夜中のレッスン★
碧惟が風呂から上がると、リビングに梓はいなかった。自室に戻ったのだろう。
冷たい水を飲み干しながら、空っぽのリビングを眺める。なんとなく、面白くない。
料理教室のあと、2人で夕食を済ませたが、梓はどことなく落ち着かない様子だった。食べ終わると、早々に碧惟に風呂を勧めた。
編プロの仕事のあとに料理教室の手伝いまでしているのだから、疲れているのだろうと思ったが、梓が先に入るよう言ってもうなずかなかった。
そのときは、単に遠慮しているのだろうと思ったのだが。
(行くしかないか)
気が進まないが、不審を放っておけるほど梓との付き合いが深いわけではない。気になることがある状態のままでは、同居は続けられなかった。
(それに、追い出す口実になるか)
梓が何をしているにせよ、家主の碧惟に断りもなくしていることがあるのなら、同居を解消する理由には十分だ。
だから、気が進まない。
今朝には気づいていたことも、まだ梓に確かめていなかった。何も言わずに料理教室の手伝いをさせ、夕食も食べさせてしまった。
(相当な寂しがりだな、俺は)
しかし、いつまでも捨て置くほどの鷹揚さも、優柔不断さもない。
碧惟は重い腰を上げると、梓の部屋をノックした。
案の定、応答はない。疲れて寝ていることも考えられたので、碧惟はもう一度ノックした後、薄くドアを開いた。
「おい、入るぞ」
部屋は無人だった。
明かりをつけると、荷物一つない殺風景さがあらわになった。唯一、梓が来る前と変わったのはベッドだったが、それさえきちんと整えられている。シーツさえ満足に掛けられなかった梓にしてみれば、大進歩だ。
碧惟は部屋を通り抜けて、廊下に出た。
玄関の鍵は閉まっている。トイレや洗面所の明かりもついていない。
その中でたった一つだけ、一番奥のキッチンスタジオは、ほんのわずかに明るんでいる。
足を忍ばせて近寄った。
真っ暗なスタジオの中、ダウンライトが一つだけついているのが、ドアのガラス越しにわかった。その真下に、梓はいた。
こちらには背を向けているが、何をしているのか、おおよその見当はついた。
スタジオの扉が薄く開いている。
(こういうところにガサツさが出るな)
ゆっくり開ければ、音もしない。梓が気づかないのをいいことに、碧惟は声もかけずにひっそりと近寄った。
冷たい水を飲み干しながら、空っぽのリビングを眺める。なんとなく、面白くない。
料理教室のあと、2人で夕食を済ませたが、梓はどことなく落ち着かない様子だった。食べ終わると、早々に碧惟に風呂を勧めた。
編プロの仕事のあとに料理教室の手伝いまでしているのだから、疲れているのだろうと思ったが、梓が先に入るよう言ってもうなずかなかった。
そのときは、単に遠慮しているのだろうと思ったのだが。
(行くしかないか)
気が進まないが、不審を放っておけるほど梓との付き合いが深いわけではない。気になることがある状態のままでは、同居は続けられなかった。
(それに、追い出す口実になるか)
梓が何をしているにせよ、家主の碧惟に断りもなくしていることがあるのなら、同居を解消する理由には十分だ。
だから、気が進まない。
今朝には気づいていたことも、まだ梓に確かめていなかった。何も言わずに料理教室の手伝いをさせ、夕食も食べさせてしまった。
(相当な寂しがりだな、俺は)
しかし、いつまでも捨て置くほどの鷹揚さも、優柔不断さもない。
碧惟は重い腰を上げると、梓の部屋をノックした。
案の定、応答はない。疲れて寝ていることも考えられたので、碧惟はもう一度ノックした後、薄くドアを開いた。
「おい、入るぞ」
部屋は無人だった。
明かりをつけると、荷物一つない殺風景さがあらわになった。唯一、梓が来る前と変わったのはベッドだったが、それさえきちんと整えられている。シーツさえ満足に掛けられなかった梓にしてみれば、大進歩だ。
碧惟は部屋を通り抜けて、廊下に出た。
玄関の鍵は閉まっている。トイレや洗面所の明かりもついていない。
その中でたった一つだけ、一番奥のキッチンスタジオは、ほんのわずかに明るんでいる。
足を忍ばせて近寄った。
真っ暗なスタジオの中、ダウンライトが一つだけついているのが、ドアのガラス越しにわかった。その真下に、梓はいた。
こちらには背を向けているが、何をしているのか、おおよその見当はついた。
スタジオの扉が薄く開いている。
(こういうところにガサツさが出るな)
ゆっくり開ければ、音もしない。梓が気づかないのをいいことに、碧惟は声もかけずにひっそりと近寄った。