料理研究家の婚約レッスン
Lesson 4
テレビ収録
梓は、碧惟と恭平と一緒に、テレビの収録現場にも行った。冠番組『出海碧惟 23時の美人メシ』だ。撮影は、テレビ局が用意したスタジオで行われている。
「おはようございます!」
朝早く、食材を車に詰め込んでスタジオに入ると、大勢のスタッフが既に忙しそうに動いていた。
「おはようございます。先生、さっそくですけど、打ち合わせをお願いします」
碧惟がスタッフに呼ばれて行ってしまうと、梓は恭平に手招きされた。
「忙しい一日になると思うけど、がんばってね」
「はい!」
「それから、何かあったら碧惟じゃなくて、俺に訊いて。あいつ、これから集中するから、邪魔しないでやってほしいんだ」
「……わかりました」
目線で碧惟を探す。
スタジオの隅に設けられたテーブルセットに座る碧惟は、真剣な面持ちだ。テレビで見るクールな出海碧惟そのものだった。
「じゃあ、さっそく用意を始めていこうか」
「はい」
恭平の指示を受けて、運び出した食材を冷蔵庫にしまったりする。
一週間分を一度に収録するらしく、スタジオ中の人たちがキビキビと動いていた。
メニューは、週替わりでテーマが決められている。今週は春のスープがテーマで、碧惟が初めに食べさせてくれたトマトスープも作る予定だ。
5日分の料理の食材を選り分け、分量を量る。
碧惟が収録で下ごしらえからするもの、予め処理しておくもの、差し替え用に途中まで作っておくもの、完成させておくものなど、それぞれ別に作っておく必要がある。
さらに、それをどうやって視聴者に伝わりやすいよう仕上げていくのか、皿などの小物は何を使うのか、ディレクターだけでなく、カメラマンやフードコーディネーターも入れて話し合う。ある程度は事前に話がついているが、実際にやってみるとうまくいかないことも多い。その場その場での判断が求められた。
碧惟は終始硬い表情を崩さず、恭平に指示を飛ばした。その中から、梓にもできそうなことを、恭平が振り分けてくれる。
(そういえば、スタジオに着いてから、先生と話してないな)
無駄話などする暇もないのだから、当然だろう。
それでも、このわずかな時間、碧惟と接触がないことに寂しく思う自分に、梓は呆れた。
(すっかり先生の傍にいることが当然に思ってたみたい)
出海碧惟は、本来なら梓が近寄れる人ではない。梓がお願いして、本を作らせてもらう立場だ。
今だって、出海碧惟という名を冠した番組制作の現場にいる。ここにいる何十人もの人の中でたった一人、替えが効かない人なのだ。
もしかしたら、そんな人だから軽々しく話しかけないようにと、恭平は言ったのかもしれなかった。
「おはようございます!」
朝早く、食材を車に詰め込んでスタジオに入ると、大勢のスタッフが既に忙しそうに動いていた。
「おはようございます。先生、さっそくですけど、打ち合わせをお願いします」
碧惟がスタッフに呼ばれて行ってしまうと、梓は恭平に手招きされた。
「忙しい一日になると思うけど、がんばってね」
「はい!」
「それから、何かあったら碧惟じゃなくて、俺に訊いて。あいつ、これから集中するから、邪魔しないでやってほしいんだ」
「……わかりました」
目線で碧惟を探す。
スタジオの隅に設けられたテーブルセットに座る碧惟は、真剣な面持ちだ。テレビで見るクールな出海碧惟そのものだった。
「じゃあ、さっそく用意を始めていこうか」
「はい」
恭平の指示を受けて、運び出した食材を冷蔵庫にしまったりする。
一週間分を一度に収録するらしく、スタジオ中の人たちがキビキビと動いていた。
メニューは、週替わりでテーマが決められている。今週は春のスープがテーマで、碧惟が初めに食べさせてくれたトマトスープも作る予定だ。
5日分の料理の食材を選り分け、分量を量る。
碧惟が収録で下ごしらえからするもの、予め処理しておくもの、差し替え用に途中まで作っておくもの、完成させておくものなど、それぞれ別に作っておく必要がある。
さらに、それをどうやって視聴者に伝わりやすいよう仕上げていくのか、皿などの小物は何を使うのか、ディレクターだけでなく、カメラマンやフードコーディネーターも入れて話し合う。ある程度は事前に話がついているが、実際にやってみるとうまくいかないことも多い。その場その場での判断が求められた。
碧惟は終始硬い表情を崩さず、恭平に指示を飛ばした。その中から、梓にもできそうなことを、恭平が振り分けてくれる。
(そういえば、スタジオに着いてから、先生と話してないな)
無駄話などする暇もないのだから、当然だろう。
それでも、このわずかな時間、碧惟と接触がないことに寂しく思う自分に、梓は呆れた。
(すっかり先生の傍にいることが当然に思ってたみたい)
出海碧惟は、本来なら梓が近寄れる人ではない。梓がお願いして、本を作らせてもらう立場だ。
今だって、出海碧惟という名を冠した番組制作の現場にいる。ここにいる何十人もの人の中でたった一人、替えが効かない人なのだ。
もしかしたら、そんな人だから軽々しく話しかけないようにと、恭平は言ったのかもしれなかった。