料理研究家の婚約レッスン
気づいた気持ち
一日がかりの収録を終え、家に帰ったのは夜も更けてからだった。
「あぁ、湖春さん素敵だったな……」
梓は、湖春とのツーショット写真を見てうっとりする。
湖春が専属モデルをしていた雑誌を梓が長年買っていたことを知って、湖春の方から撮ろうと言ってくれたのだ。
「まだ言ってんのか」
洗い髪をタオルで拭きながらやって来たのは、もちろん碧惟だ。家に帰るや否や、疲れたと言って部屋に閉じこもってしまっていた。
そんなことは初めてだったので梓は心配したが、恭平によると収録のあとはいつものこうだという。
梓と恭平が食材の後始末と簡単な夕食を済ませ、恭平が帰り、梓がお風呂に入り終わっても部屋から出てこなかったのだが、ようやくお風呂に入ったのだろう。
恭平には毎度のことだから心配しなくていいと言われていたのだが、梓は自分の部屋に戻らず、リビングで碧惟を待っていたのだった。
(良かった。顔色もいいし、元気そう)
梓の座っているソファにドサリと腰かけた。
「なに見てんだ?」
「湖春さんのSNSですよ」
「ああ、写真か……」
碧惟は湖春の顔写真をチラリと見ただけで、興味をなくしたように缶ビールのプルタブを上げる。
「先生もやればいいのに。きっとすぐフォロワーがつきますよ」
「俺はいいよ。それより、おまえも飲むか?」
「ありがとうございます」
グラスを取りに行こうと立ち上がる梓を制し、碧惟はグラスにビールを注ぎ、梓に渡した。「お疲れ」
グラスと缶を軽くぶつけ、自分は缶にそのまま口をつける。
「いただきます」
梓もありがたく相伴する。疲れた体にビールが体に染み渡った。
慣れない仕事、それもかなりハードな一日仕事は、確かに大変だった。
けれど、十分な報酬もあった。間違いなくそのうちの一つは、湖春と会えたことだろう。
「あぁ、湖春さんって、なんでこんなにかわいいんだろ」
「湖春湖春って、誰の番組だと思ってんだよ」
拗ねたような碧惟の言い方に、梓は吹き出す。
「それは、先生ですよ。先生だって、かっこよかったです。かっこよかったけど……」
ふふっと笑って、梓はビールを口に運ぶ。
「けど……なんだよ?」
梓は、碧惟の方を見ないまま、グラスに唇をつけ、ぼそぼそと続ける。
「なんだか……あらためて先生って有名人なんだなって思いました。表情だって、カメラの前と普段とじゃ、全然違うし」
「……おかしかったかよ」
「かっこよかったって言ってるじゃないですか。でも……わたしは家での先生の方が……」
(──好き、です)
ビールの苦味で、その一言を飲み込む。
碧惟に惹かれている。
碧惟が自分に見せてくれる、飾らない表情、強気な言葉、寝ぼけた姿、色っぽい仕草。些細な一つ一つに少しずつ、でも着実に引き寄せられている。
「……悪かったな」
(え……?)
「あぁ、湖春さん素敵だったな……」
梓は、湖春とのツーショット写真を見てうっとりする。
湖春が専属モデルをしていた雑誌を梓が長年買っていたことを知って、湖春の方から撮ろうと言ってくれたのだ。
「まだ言ってんのか」
洗い髪をタオルで拭きながらやって来たのは、もちろん碧惟だ。家に帰るや否や、疲れたと言って部屋に閉じこもってしまっていた。
そんなことは初めてだったので梓は心配したが、恭平によると収録のあとはいつものこうだという。
梓と恭平が食材の後始末と簡単な夕食を済ませ、恭平が帰り、梓がお風呂に入り終わっても部屋から出てこなかったのだが、ようやくお風呂に入ったのだろう。
恭平には毎度のことだから心配しなくていいと言われていたのだが、梓は自分の部屋に戻らず、リビングで碧惟を待っていたのだった。
(良かった。顔色もいいし、元気そう)
梓の座っているソファにドサリと腰かけた。
「なに見てんだ?」
「湖春さんのSNSですよ」
「ああ、写真か……」
碧惟は湖春の顔写真をチラリと見ただけで、興味をなくしたように缶ビールのプルタブを上げる。
「先生もやればいいのに。きっとすぐフォロワーがつきますよ」
「俺はいいよ。それより、おまえも飲むか?」
「ありがとうございます」
グラスを取りに行こうと立ち上がる梓を制し、碧惟はグラスにビールを注ぎ、梓に渡した。「お疲れ」
グラスと缶を軽くぶつけ、自分は缶にそのまま口をつける。
「いただきます」
梓もありがたく相伴する。疲れた体にビールが体に染み渡った。
慣れない仕事、それもかなりハードな一日仕事は、確かに大変だった。
けれど、十分な報酬もあった。間違いなくそのうちの一つは、湖春と会えたことだろう。
「あぁ、湖春さんって、なんでこんなにかわいいんだろ」
「湖春湖春って、誰の番組だと思ってんだよ」
拗ねたような碧惟の言い方に、梓は吹き出す。
「それは、先生ですよ。先生だって、かっこよかったです。かっこよかったけど……」
ふふっと笑って、梓はビールを口に運ぶ。
「けど……なんだよ?」
梓は、碧惟の方を見ないまま、グラスに唇をつけ、ぼそぼそと続ける。
「なんだか……あらためて先生って有名人なんだなって思いました。表情だって、カメラの前と普段とじゃ、全然違うし」
「……おかしかったかよ」
「かっこよかったって言ってるじゃないですか。でも……わたしは家での先生の方が……」
(──好き、です)
ビールの苦味で、その一言を飲み込む。
碧惟に惹かれている。
碧惟が自分に見せてくれる、飾らない表情、強気な言葉、寝ぼけた姿、色っぽい仕草。些細な一つ一つに少しずつ、でも着実に引き寄せられている。
「……悪かったな」
(え……?)