料理研究家の婚約レッスン
どういうつもりなのか、碧惟は自分の手を梓に差し出した。
きれいな手だ。すんなりした指の先についた爪は職業柄、短く切りそろえられている。それだけ見たら女性的なほどなのに、手の甲は驚くほど広い。
梓は思わず自分のものと比べたくなって、隣に手を差し伸べてみた。
パシッと軽い音がして、梓の手が捕らえられる。碧惟の長い指が梓の手首をつかみ、そこからそっとすべって、丸っこい指にからまった。
「え……?」
うろたえる梓をよそに、碧惟は肩を揺らしている。
「……もしかして、酔ってます?」
「まさか」
梓は掴まれていない方の左手でスマホを取り出し、カメラを碧惟に向けた。
「おい、なんだよ」
碧惟は缶ビールを口につけたまま、顔をそらす。
「こっちだろ」
見せつけるように梓とからめた手を持ち上げる。
画面には、大小の二つの手が映し出された。レンズ一つ通すだけで、自分の手じゃないみたいだ。碧惟の手は、梓よりとても大きくて、器用に動いては戯れ、逃れられそうにない。
とてつもなく恥ずかしくなって、梓は再びレンズを碧惟の顔に向けた。
「そうじゃないって言ってんだろ」
苦笑を向ける碧惟が画面に大写しになる。
「……笑ってる映像の先生、レア」
「おい」
碧惟はそう言ったが、表情は優しかった。
(こういう表情が撮れたら……。でも、他の人に見せたくないな)
「今度、料理を教わるとき、撮ってもいいですか?」
「おまえがカメラマンに徹するなら、おまえの腕は一向に上がらないな」
「そうか。どうしよう……」
碧惟はまた笑って、缶をグッと傾けた。大きな喉仏が上下する。
「飲みきれるか?」
「あっ、はい」
「ゆっくり飲めよ」
梓はスマホをおろして、残り少なくなっていたグラスを空けた。
その間、二人の手はつながれたままだった。
きれいな手だ。すんなりした指の先についた爪は職業柄、短く切りそろえられている。それだけ見たら女性的なほどなのに、手の甲は驚くほど広い。
梓は思わず自分のものと比べたくなって、隣に手を差し伸べてみた。
パシッと軽い音がして、梓の手が捕らえられる。碧惟の長い指が梓の手首をつかみ、そこからそっとすべって、丸っこい指にからまった。
「え……?」
うろたえる梓をよそに、碧惟は肩を揺らしている。
「……もしかして、酔ってます?」
「まさか」
梓は掴まれていない方の左手でスマホを取り出し、カメラを碧惟に向けた。
「おい、なんだよ」
碧惟は缶ビールを口につけたまま、顔をそらす。
「こっちだろ」
見せつけるように梓とからめた手を持ち上げる。
画面には、大小の二つの手が映し出された。レンズ一つ通すだけで、自分の手じゃないみたいだ。碧惟の手は、梓よりとても大きくて、器用に動いては戯れ、逃れられそうにない。
とてつもなく恥ずかしくなって、梓は再びレンズを碧惟の顔に向けた。
「そうじゃないって言ってんだろ」
苦笑を向ける碧惟が画面に大写しになる。
「……笑ってる映像の先生、レア」
「おい」
碧惟はそう言ったが、表情は優しかった。
(こういう表情が撮れたら……。でも、他の人に見せたくないな)
「今度、料理を教わるとき、撮ってもいいですか?」
「おまえがカメラマンに徹するなら、おまえの腕は一向に上がらないな」
「そうか。どうしよう……」
碧惟はまた笑って、缶をグッと傾けた。大きな喉仏が上下する。
「飲みきれるか?」
「あっ、はい」
「ゆっくり飲めよ」
梓はスマホをおろして、残り少なくなっていたグラスを空けた。
その間、二人の手はつながれたままだった。