料理研究家の婚約レッスン
忠告★
梓が出ていっていくらも経たたないうちに、恭平はやって来た。
「いやぁ、まいった。だいぶ積もってきたよ。遅くなってごめん!」
「いや……」
恭平のコートについた雪に、碧惟は青ざめた。
そんなに降っているのか。雪のなか行かせたのは、間違っていたのではないか。
「あれ、河合さんは今日いないの?」
「それが……」
気まずいながらもいきさつを話すと、恭平は早速作業を始めようとしていた手を止めた。
「そんなのって。河合さんに頼む前にまずテレビ局に相談してみればよかったのに」
「それはだって、食材はこっちが用意することになってんだから……」
言い訳がましくなってしまうのは、後ろめたさがあるからだろう。
「碧惟って、そういうところあるよね」
「え?」
恭平は、碧惟に背を向けて作業を始めながら、淡々と話す。
「甘えるのが下手というか。いや、違うな。目の前の人間には平気で甘えるくせに、それ以外の人間は信用していないんだ。弱みを見せないように、格好ばかりつける」
「おい」
恭平は振り返った。
「だから、いまだに人前で話をする気もないし、SNSもしない」
「それとこれとは……」
「関係あるよ。今日の教室を休みにしなかったのも、雪くらいで休む人間だって思われたくなかったんじゃないの?」
碧惟は言い返すことができなかった。
今まで恭平を始めとする周りのスタッフたちに甘えてきたのは、事実だからだ。口下手だ、カメラが嫌だと言って、苦手なものは避けてきた。
それどころか、クールなイメージを崩さないようにと言ってくれる人たちに便乗して、克服する努力も惜しんでいた。
それは自分が格好つけていたかっただけなのだろうか。
「俺は別にそれでもいいと思ってきたけど、今日はちょっとどうかと思ったよ。碧惟はたくさんいるスタッフの一人じゃないんだ。碧惟の名前のもとに、みんな集まっているんだよ。碧惟がトップなんだ。トップの決断の遅さは命取りになる。迷うなら、周りに相談することも大切なんじゃないか。それは、碧惟のブランディングとは関係ないと思うよ」
碧惟は、まだ何も言えない。恭平とは長い付き合いだが、こんなことを言われたのは初めてだった。
「それに、今は裏表のなさが求められている時代だろ。なんでもあっぴろげにすればいいってものでもないけど、そういうキャラがもてはやされるよな」
「……そうだな」
間近で助けてくれた恭平の言うことだから、突き刺さった。
「ごめん」
「いや。俺も言い過ぎた」
「自分が楽をするために、おまえにいろいろ任せてるだけじゃないんだ」
「わかってるよ。さあ、準備を続けよう」
「ああ。その前に、あいつに電話してみていいか」
碧惟は、梓に電話した。
「……通じないな」
「もう電車に乗ってるだろうから、どこかで気づくんじゃない?」
「そうだな」
それでも未練がましく電話を見つめる碧惟を、恭平は追い立てた。
「ほら、生徒さんが来ちゃうよ。続けよう」
「ああ」
「いやぁ、まいった。だいぶ積もってきたよ。遅くなってごめん!」
「いや……」
恭平のコートについた雪に、碧惟は青ざめた。
そんなに降っているのか。雪のなか行かせたのは、間違っていたのではないか。
「あれ、河合さんは今日いないの?」
「それが……」
気まずいながらもいきさつを話すと、恭平は早速作業を始めようとしていた手を止めた。
「そんなのって。河合さんに頼む前にまずテレビ局に相談してみればよかったのに」
「それはだって、食材はこっちが用意することになってんだから……」
言い訳がましくなってしまうのは、後ろめたさがあるからだろう。
「碧惟って、そういうところあるよね」
「え?」
恭平は、碧惟に背を向けて作業を始めながら、淡々と話す。
「甘えるのが下手というか。いや、違うな。目の前の人間には平気で甘えるくせに、それ以外の人間は信用していないんだ。弱みを見せないように、格好ばかりつける」
「おい」
恭平は振り返った。
「だから、いまだに人前で話をする気もないし、SNSもしない」
「それとこれとは……」
「関係あるよ。今日の教室を休みにしなかったのも、雪くらいで休む人間だって思われたくなかったんじゃないの?」
碧惟は言い返すことができなかった。
今まで恭平を始めとする周りのスタッフたちに甘えてきたのは、事実だからだ。口下手だ、カメラが嫌だと言って、苦手なものは避けてきた。
それどころか、クールなイメージを崩さないようにと言ってくれる人たちに便乗して、克服する努力も惜しんでいた。
それは自分が格好つけていたかっただけなのだろうか。
「俺は別にそれでもいいと思ってきたけど、今日はちょっとどうかと思ったよ。碧惟はたくさんいるスタッフの一人じゃないんだ。碧惟の名前のもとに、みんな集まっているんだよ。碧惟がトップなんだ。トップの決断の遅さは命取りになる。迷うなら、周りに相談することも大切なんじゃないか。それは、碧惟のブランディングとは関係ないと思うよ」
碧惟は、まだ何も言えない。恭平とは長い付き合いだが、こんなことを言われたのは初めてだった。
「それに、今は裏表のなさが求められている時代だろ。なんでもあっぴろげにすればいいってものでもないけど、そういうキャラがもてはやされるよな」
「……そうだな」
間近で助けてくれた恭平の言うことだから、突き刺さった。
「ごめん」
「いや。俺も言い過ぎた」
「自分が楽をするために、おまえにいろいろ任せてるだけじゃないんだ」
「わかってるよ。さあ、準備を続けよう」
「ああ。その前に、あいつに電話してみていいか」
碧惟は、梓に電話した。
「……通じないな」
「もう電車に乗ってるだろうから、どこかで気づくんじゃない?」
「そうだな」
それでも未練がましく電話を見つめる碧惟を、恭平は追い立てた。
「ほら、生徒さんが来ちゃうよ。続けよう」
「ああ」