料理研究家の婚約レッスン
「さようなら。気をつけて」
最後の生徒を送り出した途端、気になるのは外の様子だ。
窓を開けると、雪はまだ降り続いていた。東京では記憶にないほど、積もっている。
そろそろ梓は帰路についているはずだが、連絡はない。
「碧惟。明日の収録の準備を始めよう」
「……そうだな」
碧惟はまだ動けない。
明日は朝早くからテレビ収録だ。一日がかりの収録を手際よく進めていくために、事前に膨大な準備が必要になる。
それでも梓の様子が心配だ。
「碧惟」
廊下で電話をかけようとしていた碧惟に、恭平が声をかける。
「河合さん、連絡ないの?」
「あ、ああ……」
何度電話してもつながらない。
すんなり行って戻って来られたなら、もうとっくに到着しても良い頃だった。
「そんなに心配なら、あとは俺に任せて」
「……悪い」
「入れ違いになると困るから、ここで待っていた方がいいと思って、気づかないふりをしていたんだけど、ここまで遅いとね」
恭平の目を盗んでいたつもりだったが、お見通しだったようだ。
碧惟は礼を言って、外に飛び出した。
雪はやむどころか、強くなっている。
(梓、どこにいる)
マンションの前を見渡しても、人っ子一人いない。車も通らない。
風も強くなってきた。薄着にエプロンで出てきてしまった碧惟の体温を容易に奪う。
しばらく待っていたが、諦めて部屋に戻る。
だが、落ち着かない。
少しばかり作業すると、今度はコートを着込んで外に出た。
それを何度も繰り返す。
恭平は驚いていたが、気にする余裕はなかった。迷惑をかけているが、今日ばかりは許してもらうしかない。
(なんで連絡がないんだ!)
今どこにいる、くらいの連絡があってもいいじゃないか。農家には無事に着いたのか。それさえわからない。
日はとっくに暮れていた。
とにかく作業を終わらせないと、恭平も帰るに困るようになると気づいて仕事に集中するようになったが、今度は緊急車両のサイレンまで聞こえてきた。
たまらくなって、また外に飛び出す。電灯の明かりさえ吸収する雪をうらめしくにらんだ。
(早く帰ってきてくれ!)
どれだけそう願ったか──。
最後の生徒を送り出した途端、気になるのは外の様子だ。
窓を開けると、雪はまだ降り続いていた。東京では記憶にないほど、積もっている。
そろそろ梓は帰路についているはずだが、連絡はない。
「碧惟。明日の収録の準備を始めよう」
「……そうだな」
碧惟はまだ動けない。
明日は朝早くからテレビ収録だ。一日がかりの収録を手際よく進めていくために、事前に膨大な準備が必要になる。
それでも梓の様子が心配だ。
「碧惟」
廊下で電話をかけようとしていた碧惟に、恭平が声をかける。
「河合さん、連絡ないの?」
「あ、ああ……」
何度電話してもつながらない。
すんなり行って戻って来られたなら、もうとっくに到着しても良い頃だった。
「そんなに心配なら、あとは俺に任せて」
「……悪い」
「入れ違いになると困るから、ここで待っていた方がいいと思って、気づかないふりをしていたんだけど、ここまで遅いとね」
恭平の目を盗んでいたつもりだったが、お見通しだったようだ。
碧惟は礼を言って、外に飛び出した。
雪はやむどころか、強くなっている。
(梓、どこにいる)
マンションの前を見渡しても、人っ子一人いない。車も通らない。
風も強くなってきた。薄着にエプロンで出てきてしまった碧惟の体温を容易に奪う。
しばらく待っていたが、諦めて部屋に戻る。
だが、落ち着かない。
少しばかり作業すると、今度はコートを着込んで外に出た。
それを何度も繰り返す。
恭平は驚いていたが、気にする余裕はなかった。迷惑をかけているが、今日ばかりは許してもらうしかない。
(なんで連絡がないんだ!)
今どこにいる、くらいの連絡があってもいいじゃないか。農家には無事に着いたのか。それさえわからない。
日はとっくに暮れていた。
とにかく作業を終わらせないと、恭平も帰るに困るようになると気づいて仕事に集中するようになったが、今度は緊急車両のサイレンまで聞こえてきた。
たまらくなって、また外に飛び出す。電灯の明かりさえ吸収する雪をうらめしくにらんだ。
(早く帰ってきてくれ!)
どれだけそう願ったか──。