料理研究家の婚約レッスン
熱★
キッチンにしばらくいると、梓がやって来た。
「さっぱりしました」
「気分はどうだ? 体温を計ってみろ」
「ちょっと疲れましたけど、元気ですよ」
体温計の表示を見てハッとした梓を、碧惟は見逃さない。
「38度? 病院に行くか? 夜だから、救急病院か!?」
「お風呂から出たばかりだからですよ。寝てれば治ります」
「……すまなかった」
自然と頭が下がった。
「先生が謝ることありませんよ。わたしが自分から行くって言ったんです」
にこにこと笑う梓と対照的に、碧惟の表情はゆがんでいく。
「少しでも食べられそうなら、スープがある。風邪薬も飲んでおけよ」
「もしかして、わざわざ作ってくれたんですか?」
ありあわせだが、風邪でも食べやすそうなものをいくつか用意しておいた。
「おいしい。やっぱり先生の作ったお料理、おいしいです」
「そうか」
「はい」
やはり体はしんどいのか、梓はとろとろに煮込んだ野菜スープをゆっくりと流し込んだ。
風呂に入ったというのに真っ白だった梓の頬に、徐々に赤みが差していくのを見ると、ようやくざわめいていた碧惟の心も落ち着いてくる。
(なんでこう一所懸命なんだろうな)
仕事も生活もずさんだったのに、梓は日に日に変わっていく。
碧惟のことも編集の仕事もろくに知らなそうだったのに、身一つでこの家に飛び込んできた。キャベツの外葉をはがすことさえ知らなかったのに、一人千切りの練習をしていた。包丁も持ったことがないのに、料理教室にもテレビの収録現場にもついてきた。
がむしゃらだが、まっすぐで素直に教えを請う。苦手なものからは、これ幸いと逃げてきていた最近の自分とは正反対だ。
自らを変えようとするエネルギーが、まぶしくて愛おしい。
(俺も負けてられないな)
恭平に言われたこともあるし、変わるタイミングなのかもしれない。このままでは遅かれ早かれ行き詰まることは、うすうすわかっていた。
だから、突拍子もない、と思った提案をする梓を受け入れたのだ。今なら、そうわかる。
「ごちそうさまでした。おいしかったぁ……って、キャ!?」
「さっぱりしました」
「気分はどうだ? 体温を計ってみろ」
「ちょっと疲れましたけど、元気ですよ」
体温計の表示を見てハッとした梓を、碧惟は見逃さない。
「38度? 病院に行くか? 夜だから、救急病院か!?」
「お風呂から出たばかりだからですよ。寝てれば治ります」
「……すまなかった」
自然と頭が下がった。
「先生が謝ることありませんよ。わたしが自分から行くって言ったんです」
にこにこと笑う梓と対照的に、碧惟の表情はゆがんでいく。
「少しでも食べられそうなら、スープがある。風邪薬も飲んでおけよ」
「もしかして、わざわざ作ってくれたんですか?」
ありあわせだが、風邪でも食べやすそうなものをいくつか用意しておいた。
「おいしい。やっぱり先生の作ったお料理、おいしいです」
「そうか」
「はい」
やはり体はしんどいのか、梓はとろとろに煮込んだ野菜スープをゆっくりと流し込んだ。
風呂に入ったというのに真っ白だった梓の頬に、徐々に赤みが差していくのを見ると、ようやくざわめいていた碧惟の心も落ち着いてくる。
(なんでこう一所懸命なんだろうな)
仕事も生活もずさんだったのに、梓は日に日に変わっていく。
碧惟のことも編集の仕事もろくに知らなそうだったのに、身一つでこの家に飛び込んできた。キャベツの外葉をはがすことさえ知らなかったのに、一人千切りの練習をしていた。包丁も持ったことがないのに、料理教室にもテレビの収録現場にもついてきた。
がむしゃらだが、まっすぐで素直に教えを請う。苦手なものからは、これ幸いと逃げてきていた最近の自分とは正反対だ。
自らを変えようとするエネルギーが、まぶしくて愛おしい。
(俺も負けてられないな)
恭平に言われたこともあるし、変わるタイミングなのかもしれない。このままでは遅かれ早かれ行き詰まることは、うすうすわかっていた。
だから、突拍子もない、と思った提案をする梓を受け入れたのだ。今なら、そうわかる。
「ごちそうさまでした。おいしかったぁ……って、キャ!?」