料理研究家の婚約レッスン
Lesson 8
キャスティング
碧惟からのゴーサインを受け取り、企画は急ピッチで進められることになった。
打ち合わせには、梓も同席した。担当編集者は弥生で、梓はそのアシスタントにつくことになっている。
弥生が出した素案を元に、碧惟の意見を取り入れ、作品を作っていく。メニューは話し合いで決めていくが、レシピはもちろん碧惟が考え、実際に料理も作る。
コンセプトは、梓が提案した通り、新婚家庭でのレッスン。料理初心者の新妻に、夫の碧惟が料理を教えるという設定だ。
「書籍もDVDも、女性モデルは手や肩だけ映りこみます。お顔が出るのは、碧惟先生だけです」
そう説明した弥生に、意見したのは碧惟だった。
「それなら、そのモデルは梓がやってくれないか」
「え?」
驚いたのは弥生だけではない。梓も聞いていなかった。
「顔が映らないなら、梓でもいいだろ? 素人の方が、臨場感がある。梓は料理も初心者だし、ちょうどいいじゃないか」
「いえ、でもプロのモデルさんの方が撮影も慣れていますし、映りもいいので……」
慌てる梓と弥生を尻目に、碧惟は開き直ったように椅子の背もたれに体を預けた。
「梓じゃなきゃやらない」
「え!!」
「元々そう思ってたんだ」
悪びれもしない碧惟に、梓は唖然とした。
「先生、そんなこと聞いてません!」
「なんだ。一緒に作ろうって言ったじゃないか。それに、俺は演技ができない。梓が相手なら演技なんていらないだろ?」
「え……」
「梓が、俺の嫁をやれって言ってんだよ」
プロポーズ紛いの言葉に、梓は赤面して硬直する。
「……あの、話が見えないんですが」
恐る恐る割り込んだのは、弥生だ。
「つまり、俺の嫁役は梓にしかできないってこと。俺たち、付き合ってるから」
「え!? 本当なの、梓ちゃん!!」
梓が赤い顔でにらんでも、碧惟は面白そうに笑うだけだ。
「……本当です」
そういうことならと、弥生は碧惟の提案を承諾してしまった。
梓の丸っこい指や短く切りそろえられただけの爪も、リアリティがあっていいと調子の良いことを言う。
「もう、梓ちゃん。なんで言ってくれなかったの?」
二人きりになったときに、そう言った弥生は、すぐに続けた。
「なんて、言えるわけないよね。相手が相手だもの」
「すみません」
「謝ることなんてないよ。新しい恋を始めたんだね。応援してる」
「ありがとうございます!」
「いい作品を作ろうね」
「はい!」
固い握手を交わした二人は、どんどん企画を進めた。
慣れない編集のアシスタントに撮影にと、梓は戸惑うことも多かったが、碧惟と弥生がサポートしてくれたので、無事にこなすことができ、何とか弥生の産休前に出版することが決まった。
そして、碧惟の番組『23時の美人メシ』ともタイアップすることになり、発売記念イベントとして、テレビの公開収録も行われることになったのだった。
打ち合わせには、梓も同席した。担当編集者は弥生で、梓はそのアシスタントにつくことになっている。
弥生が出した素案を元に、碧惟の意見を取り入れ、作品を作っていく。メニューは話し合いで決めていくが、レシピはもちろん碧惟が考え、実際に料理も作る。
コンセプトは、梓が提案した通り、新婚家庭でのレッスン。料理初心者の新妻に、夫の碧惟が料理を教えるという設定だ。
「書籍もDVDも、女性モデルは手や肩だけ映りこみます。お顔が出るのは、碧惟先生だけです」
そう説明した弥生に、意見したのは碧惟だった。
「それなら、そのモデルは梓がやってくれないか」
「え?」
驚いたのは弥生だけではない。梓も聞いていなかった。
「顔が映らないなら、梓でもいいだろ? 素人の方が、臨場感がある。梓は料理も初心者だし、ちょうどいいじゃないか」
「いえ、でもプロのモデルさんの方が撮影も慣れていますし、映りもいいので……」
慌てる梓と弥生を尻目に、碧惟は開き直ったように椅子の背もたれに体を預けた。
「梓じゃなきゃやらない」
「え!!」
「元々そう思ってたんだ」
悪びれもしない碧惟に、梓は唖然とした。
「先生、そんなこと聞いてません!」
「なんだ。一緒に作ろうって言ったじゃないか。それに、俺は演技ができない。梓が相手なら演技なんていらないだろ?」
「え……」
「梓が、俺の嫁をやれって言ってんだよ」
プロポーズ紛いの言葉に、梓は赤面して硬直する。
「……あの、話が見えないんですが」
恐る恐る割り込んだのは、弥生だ。
「つまり、俺の嫁役は梓にしかできないってこと。俺たち、付き合ってるから」
「え!? 本当なの、梓ちゃん!!」
梓が赤い顔でにらんでも、碧惟は面白そうに笑うだけだ。
「……本当です」
そういうことならと、弥生は碧惟の提案を承諾してしまった。
梓の丸っこい指や短く切りそろえられただけの爪も、リアリティがあっていいと調子の良いことを言う。
「もう、梓ちゃん。なんで言ってくれなかったの?」
二人きりになったときに、そう言った弥生は、すぐに続けた。
「なんて、言えるわけないよね。相手が相手だもの」
「すみません」
「謝ることなんてないよ。新しい恋を始めたんだね。応援してる」
「ありがとうございます!」
「いい作品を作ろうね」
「はい!」
固い握手を交わした二人は、どんどん企画を進めた。
慣れない編集のアシスタントに撮影にと、梓は戸惑うことも多かったが、碧惟と弥生がサポートしてくれたので、無事にこなすことができ、何とか弥生の産休前に出版することが決まった。
そして、碧惟の番組『23時の美人メシ』ともタイアップすることになり、発売記念イベントとして、テレビの公開収録も行われることになったのだった。