料理研究家の婚約レッスン
真相
弥生に気遣われながら、梓は公開収録の行われる特設スタジオまでやって来た。
まずは、テレビ局や出版社のスタッフに挨拶を済ませる。後は、演者の控室だ。
「梓ちゃん、大丈夫?」
「はい……それより、弥生さんの方こそ、体調に気をつけてくださいね。何かあったら、すぐ言ってくださいよ」
「ありがとう」
弥生のおなかも、だいぶ膨らんできた。妊婦に余計なストレスをかけてしまって、申し訳ない。
弥生は、いつも優しく見守ってくれた。弥生への恩返しのつもりで始めた仕事だ。最後までやり通してみせる。
梓は覚悟を決めると、控室のドアをノックした。
スタッフが忙しそうに動き回る中、恭平が矢継ぎ早に指示を出していた。
「……梓ちゃん」
振り向くと、その部屋の隅に湖春が腰かけていた。
立ち上がった湖春に気づき、恭平が手を止める。二人は目配せすると、梓に近づいてきた。
「梓ちゃん、迷惑かけてごめんね」
「湖春さん、恭平さん……」
「碧惟先生は対応に追われていて、まだ到着していないの。向こうの部屋で話しましょう」
湖春が梓を守るように、背に手を回した。
(どうしてこんなに優しいの?)
自分はまともに湖春の顔も見られない有り様なのに、湖春は普段どおりの心からの思いやりを感じる。
やはり、報道は間違いなのだろうか。
それとも、湖春は本当に碧惟の子どもを宿していて、だから捨てられる運命の梓には親切なのだろうか。
(そんな人じゃないって、わかってるけど)
何も信じられない自分が情けなくて、梓はとぼとぼと湖春についていった。
スタッフに指示を出し終えた恭平が後に続く。弥生もやって来た。
控室の隣の小さな部屋に入った4人は、知らずため息をついた。
「週刊誌の記事、見たよね? こんなことになって、ごめんなさい。わかっていると思うけど、わたしと碧惟先生の間には何もないよ」
「はい……」
煮え切らない様子の梓おまえに、湖春と恭平は視線を交わす。恭平が気遣わしげに湖春の肩を抱き、口を開いた。
「河合さん、実は俺たち結婚するんだ」
「わたしの相手は、恭平なの。妊娠しているのは、本当。病院に入る写真を撮られたとき、近くに恭平もいたわ」
「え……?」
「うちのモデル事務所は小さなところなんだけど、最近大手の事務所を辞めて入ってくる子が多くて、嫌がらせを受けているの。この記事も、誤報だとわかっていたのに止められなくて。本当にごめんなさい。今日のイベントの前に会見を開くから、説明させて」
「発売当日に発表したかったんだけど、契約先への説明を先にしなくてはならないから、遅くなってしまってね。それに、湖春の体調も良くなかったから、今日になってしまった。申し訳ない」
「いえ、謝らないでください。湖春さんと恭平さんが悪いわけではないですし、事情もわかりました。それより湖春さんの体調は、大丈夫なんですか?」
いつも溌剌としていた湖春の顔色が、どことなく悪いような気がする。恭平がずっと支えているのも気になった。
「うん……正直に言って、全然良くないの」
「それで、折り入って河合さんにお願いが……」
湖春と恭平の提案に、梓と弥生は目をむいた。
まずは、テレビ局や出版社のスタッフに挨拶を済ませる。後は、演者の控室だ。
「梓ちゃん、大丈夫?」
「はい……それより、弥生さんの方こそ、体調に気をつけてくださいね。何かあったら、すぐ言ってくださいよ」
「ありがとう」
弥生のおなかも、だいぶ膨らんできた。妊婦に余計なストレスをかけてしまって、申し訳ない。
弥生は、いつも優しく見守ってくれた。弥生への恩返しのつもりで始めた仕事だ。最後までやり通してみせる。
梓は覚悟を決めると、控室のドアをノックした。
スタッフが忙しそうに動き回る中、恭平が矢継ぎ早に指示を出していた。
「……梓ちゃん」
振り向くと、その部屋の隅に湖春が腰かけていた。
立ち上がった湖春に気づき、恭平が手を止める。二人は目配せすると、梓に近づいてきた。
「梓ちゃん、迷惑かけてごめんね」
「湖春さん、恭平さん……」
「碧惟先生は対応に追われていて、まだ到着していないの。向こうの部屋で話しましょう」
湖春が梓を守るように、背に手を回した。
(どうしてこんなに優しいの?)
自分はまともに湖春の顔も見られない有り様なのに、湖春は普段どおりの心からの思いやりを感じる。
やはり、報道は間違いなのだろうか。
それとも、湖春は本当に碧惟の子どもを宿していて、だから捨てられる運命の梓には親切なのだろうか。
(そんな人じゃないって、わかってるけど)
何も信じられない自分が情けなくて、梓はとぼとぼと湖春についていった。
スタッフに指示を出し終えた恭平が後に続く。弥生もやって来た。
控室の隣の小さな部屋に入った4人は、知らずため息をついた。
「週刊誌の記事、見たよね? こんなことになって、ごめんなさい。わかっていると思うけど、わたしと碧惟先生の間には何もないよ」
「はい……」
煮え切らない様子の梓おまえに、湖春と恭平は視線を交わす。恭平が気遣わしげに湖春の肩を抱き、口を開いた。
「河合さん、実は俺たち結婚するんだ」
「わたしの相手は、恭平なの。妊娠しているのは、本当。病院に入る写真を撮られたとき、近くに恭平もいたわ」
「え……?」
「うちのモデル事務所は小さなところなんだけど、最近大手の事務所を辞めて入ってくる子が多くて、嫌がらせを受けているの。この記事も、誤報だとわかっていたのに止められなくて。本当にごめんなさい。今日のイベントの前に会見を開くから、説明させて」
「発売当日に発表したかったんだけど、契約先への説明を先にしなくてはならないから、遅くなってしまってね。それに、湖春の体調も良くなかったから、今日になってしまった。申し訳ない」
「いえ、謝らないでください。湖春さんと恭平さんが悪いわけではないですし、事情もわかりました。それより湖春さんの体調は、大丈夫なんですか?」
いつも溌剌としていた湖春の顔色が、どことなく悪いような気がする。恭平がずっと支えているのも気になった。
「うん……正直に言って、全然良くないの」
「それで、折り入って河合さんにお願いが……」
湖春と恭平の提案に、梓と弥生は目をむいた。