料理研究家の婚約レッスン
告白★
「碧惟さん、いったいどういうことですか?」
「どこまでが演出なのでしょうか?」
「本当に、その女性とご結婚されると?」
後ろに控えていたはずの芸能記者たちが沸きたち、ステージの下に詰めかけた。
観客の女性たちはショックを隠しきれない様子で、てんでに騒いでいる。泣いている人までいるのが見えて、碧惟は少しばかり申し訳ない気もした。
(やりすぎたか?)
週刊誌の報道に腹を立て、恭平と湖春から事務所に対する嫌がらせの話を聞いてますます憤った。勝手に騒ぎ立てる世間に一矢報いてやろうと、今までの自分のイメージにはない派手なことをしようとも思った。
でも、それ以上に梓に対して、誠実に向かい合いたかったのだ。碧惟が見ているのは梓だけだと、碧惟が愛しているのは梓だけだと、人々の前で誓いたかったのだが。
「……梓。大丈夫か?」
隣の梓は、真っ赤な顔をあげた。あふれんばかりの涙をたたえて、戸惑っている。
「こんなところで突然悪かった。でも、俺の気持ちは本物だ」
「はい、信じてます。碧惟先生のことは、疑ったことなんてありません。やっぱり信じて良かった……」
「梓……」
裏切られた過去をもつ梓が、今回の報道にどれだけ心を傷めたのかと思うと、碧惟も息苦しいほど悲しかった。
もうこんな思いはさせまいと願いを込めて、梓の腰を一度抱いてから、碧惟は一人でステージの裾に寄って頭を下げた。
「お騒がせして申し訳ありません。せっかくですから、まずは料理を召し上がっていただけませんか? スタッフの皆さん、観覧客の方々にお配りしてください。よろしければ、記者の皆さんも召し上がってください。ご質問には収録終了後に、いくらでもお答えしますので」
料理が行き渡ると、雑然としていた空気が落ち着いてきた。
「いかがですか?」
まだステージの裾で粘っていた記者に、話しかける。
「おいしいです。僕、魚は苦手なんだけど、これはおいしいな」
「良かった」
思わず口元がほころぶと、シャッターがたかれた。
いつもならサッと顔を引き締めるところだが、構わない。いくらでも撮ればいい。こっちが素の出海碧惟なのだ。
碧惟はマイクを持つと、観覧席にも回った。カメラが回っているところに観客がいるのは初めてだが、料理教室の生徒だと思えば、緊張は少し減る。
「どうでした? おいしかった?」
「はい、とてもおいしかったです」
「良かった」
急に話しかけられた観客は驚いていたが、感激したようだった。
「自分でもできそう?」
「はい、やってみようと思いました」
「うん、初心者でもできるように考えたんだ。ぜひ作ってみてください」
「はい!」
ステージに戻ると、梓まで感激したような顔をしていた。あがり症の碧惟が他人に自分から話しかけにいったからだろう。
これでいいのだというようにほほ笑んでくれている。それを見ていると、碧惟もこれが正解だったのだと思えてくるから不思議だ。
梓の隣に立った碧惟は、観客やスタッフ、記者たちを見回すと話し始めた。
「どこまでが演出なのでしょうか?」
「本当に、その女性とご結婚されると?」
後ろに控えていたはずの芸能記者たちが沸きたち、ステージの下に詰めかけた。
観客の女性たちはショックを隠しきれない様子で、てんでに騒いでいる。泣いている人までいるのが見えて、碧惟は少しばかり申し訳ない気もした。
(やりすぎたか?)
週刊誌の報道に腹を立て、恭平と湖春から事務所に対する嫌がらせの話を聞いてますます憤った。勝手に騒ぎ立てる世間に一矢報いてやろうと、今までの自分のイメージにはない派手なことをしようとも思った。
でも、それ以上に梓に対して、誠実に向かい合いたかったのだ。碧惟が見ているのは梓だけだと、碧惟が愛しているのは梓だけだと、人々の前で誓いたかったのだが。
「……梓。大丈夫か?」
隣の梓は、真っ赤な顔をあげた。あふれんばかりの涙をたたえて、戸惑っている。
「こんなところで突然悪かった。でも、俺の気持ちは本物だ」
「はい、信じてます。碧惟先生のことは、疑ったことなんてありません。やっぱり信じて良かった……」
「梓……」
裏切られた過去をもつ梓が、今回の報道にどれだけ心を傷めたのかと思うと、碧惟も息苦しいほど悲しかった。
もうこんな思いはさせまいと願いを込めて、梓の腰を一度抱いてから、碧惟は一人でステージの裾に寄って頭を下げた。
「お騒がせして申し訳ありません。せっかくですから、まずは料理を召し上がっていただけませんか? スタッフの皆さん、観覧客の方々にお配りしてください。よろしければ、記者の皆さんも召し上がってください。ご質問には収録終了後に、いくらでもお答えしますので」
料理が行き渡ると、雑然としていた空気が落ち着いてきた。
「いかがですか?」
まだステージの裾で粘っていた記者に、話しかける。
「おいしいです。僕、魚は苦手なんだけど、これはおいしいな」
「良かった」
思わず口元がほころぶと、シャッターがたかれた。
いつもならサッと顔を引き締めるところだが、構わない。いくらでも撮ればいい。こっちが素の出海碧惟なのだ。
碧惟はマイクを持つと、観覧席にも回った。カメラが回っているところに観客がいるのは初めてだが、料理教室の生徒だと思えば、緊張は少し減る。
「どうでした? おいしかった?」
「はい、とてもおいしかったです」
「良かった」
急に話しかけられた観客は驚いていたが、感激したようだった。
「自分でもできそう?」
「はい、やってみようと思いました」
「うん、初心者でもできるように考えたんだ。ぜひ作ってみてください」
「はい!」
ステージに戻ると、梓まで感激したような顔をしていた。あがり症の碧惟が他人に自分から話しかけにいったからだろう。
これでいいのだというようにほほ笑んでくれている。それを見ていると、碧惟もこれが正解だったのだと思えてくるから不思議だ。
梓の隣に立った碧惟は、観客やスタッフ、記者たちを見回すと話し始めた。