副社長と恋のような恋を
「居留守使っていいのに」

「いや、この部屋の鍵を持っている方です。年配のきれいな女性ですけど」

 その言葉に、副社長の眉間にしわが寄った。私の体から腕を離し、起き上がる。

「悪いんだけど、クローゼットから羽織るものを取ってくれる」

「はい」

 近くにあったクローゼットから黒いカーディガンを取り出した。それを渡すと、副社長は険しい顔で羽織った。寝室を出ると、副社長は女性の前に座る。

「体調、悪いんですって。顔色が悪いわね。大丈夫?」

「お気遣いなく。なんの用ですか、母さん」

 やっぱり家族だった。それにしても二人の関係はずいぶんとギクシャクしていた。

 家族の話に私がいるのもおかしい。キッチンへ行って、二人に紅茶を入れた。それをローテーブルの上に並べる。

「あの、私はこれで失礼します」

 そう言うと、二人が私をいっせいに見る。

「麻衣は帰らなくていいよ。母はすぐに帰るから」

「ですが」

 私が立ち上がろうとすると、副社長に手首をつかまれた。

「いいから」

 仕方なく副社長の隣に座った。

「やっぱりあなた、明人のお付き合いしている人なのね」

「だったらなんです。あなたには関係ないでしょ」

「関係ない? 私はあなたの母親よ。彼女と結婚するつもりなのかしら?」
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