副社長と恋のような恋を
「用がないなら帰ってください」

「用はありました。本当はお見合いの話を持ってきたの。お付き合いしている人がいるのに無理強いするようなこと、私もしないわ。今日はこれで失礼します」

「待ってください。勝手に作ったスペアキーは置いていってください」

 お母さんは副社長に冷たい視線を送り、テーブルにスペアキーを置いて帰った。

 すっかり冷めてしまった紅茶を片付けようと立ち上がった。すると副社長も立ち上がる。

「ベッドで横になりますか? 薬でだいぶ落ち着いたみたいですけど、無理は禁物ですよ」

 副社長は俯いていた。今どんな表情をしているのかわからない。

「明人さん」

 副社長は両腕を上げると、私を抱きしめた。首に熱い息がかかる。背中に回る腕や胸が熱かった。

「明人さん、体熱い。熱、出てますよね。休んでください」

「ちゃんと休むから、少しだけこのままで」

 戸惑いつつも、副社長の広い背中に腕を回した。すると副社長はますます腕に力を込める。体がギュッと密着して、副社長の心臓の音が聞こえた。

「大丈夫だから」

「はい」

「俺、麻衣のことすごく大事だから」

「はい」

 なんだか副社長が泣いているんじゃないかと思った。私がここにいることで少しでも副社長が楽に慣れたらいいのに、と思った。
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