副社長と恋のような恋を
「そうであってほしいよ。でも、母は妙に勘が働く人だから」

「そういう感じですね」

「とにかく母が会いに来ても無視してくれて構わない。それから母と会ったときは俺に言ってくれ」

「わかりました」

 副社長はなんだかとても心配そうだった。そんなに気にしなくたっていいのに。言われることなんて、息子と釣り合わないとか、玉の輿を狙っているとか、そんな類のことだろう。別にそれぐらいなんともない。

 とは思っていても、注意しておいたほうがいい。通勤時は帽子を被るか、日傘を差すようにした。今が夏でよかったと思う。

 でも、予想外のことが起きた。まさか自宅近くの駅で会うとは思わなかった。そして私は都築麻衣の格好をしている。副社長と会う約束をしていたからだ。

「麻衣さん、お久しぶりですね」

「お久しぶりです」

「よかったら、そこのカフェで少し話できないかしら?」

 口調はお誘いしているのに、顔は命令をしている。感情と表情が一致しないというのはとても恐ろしく感じる。

 とりあえず、こわばる表情をなんとか笑顔に変えた。

「はい。よろこんで」

「いきましょう」

 日傘を差すお母さんの後ろについて歩く。
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