副社長と恋のような恋を
 早めに話を切り上げられるかな。いっそのことカフェに行かず、ここで思いの丈をぶつけてもらったほうが逃げやすいんじゃないだろうか。

 そんなことを考えているうちに、カフェについてしまった。私たちは向かい合わせに座った。

 副社長のお母さんというだけあって、年を重ねていてもきれいな人だ。その分、独特の迫力もある。その迫力は、別物ではあるけれど神の黒笑(こくしょう)に通じるものを感じた。

 店員さんがアイスコーヒーと伝票を置いていなくなった。それを合図にしたかのように、お母さんが口を開いた。

「ごめんなさい。急なことでびっくりしたでしょ」

「いえ」

「明人とはお付き合いしてどれくらい?」

 付き合っていないから、どれくらいもなにもないんだけど。まあ、私の誕生日からってことでいいか。

「半年くらいになります」

「そう。お付き合いするきっかけは、なんだったの?」

 なんだろう。一緒に仕事をするようになって。これだと公私混同しているみたいか。

「この腕時計を拾ってもらったことがきっかけで」

 私は腕時計をお母さんに見せた。CRONUSの年代物の腕時計だし、悪くない理由だろう。

「そう」
< 110 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop