副社長と恋のような恋を
 思ったより反応が薄かった。お母さんはコーヒーを一口飲む。突然、訪れた沈黙に耐えられず、私もコーヒーを飲んだ。

「結婚の話はどれくらい具体的にでているのかしら?」

 その言葉にどう答えればいいんだろう。この前の話の感じだと、結婚もゼロではないというニュアンスで副社長は話していた。一応は“ごっこ”だけれど、婚約者という肩書がある。なんとなくぼやかして答えるしかないか。

「それは追々、考えていこうという程度です」

「そうなの。つまり、現状で明人の結婚相手になる可能性が一番高いのはあなたなのね」

 その言い方はいくら自分の子供でも失礼じゃないか、と思った。付き合っている恋人がいれば、そのまま付き合っていけば結婚だってありうるだろう。まるで、恋人と結婚相手は別で、複数の相手が常にいるようにもとれる。

 言い返したい気持ちでいっぱいだったけれど、ここで私が反論すれば、ケンカになりかねない気がした。ムカムカする気持ちをぐっと抑えた。

「麻衣さんって、作家をなさっているの?」

「あの、どうしてそう思ったんですか?」

「ごめんなさい。この前、明人の部屋で会ったとき、あなたのパソコンが開いて置いてあったでしょ。画面を見てしまったの。そこに小説のプロットのようなものが表示されていたから」
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