副社長と恋のような恋を
 どうして親子揃って、私が作家だって気がつくんだろう。

「はい。副業で作家をしております」

「やっぱり。今すぐ、明人と別れる約束をしてください」

「どうしてですか?」

 少し強めの口調で聞き返した。

「作家なんて仕事をやっている人間は、息子にふさわしくないからです」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味です」

 お母さんは副社長と同じ目で私を睨んできた。

「長男の雅人(まさと)は、突然画家になると言って、勝手に海外へと行きました。明人は知らないうちに小説家になっていました。でも、ちゃんとやめて会社を継いでくれたのに。今度は恋人が作家。どうしてうちの子たちは作家だの、画家だの、そんなのばかり惹かれるのしら」

 副社長が作家をしていた。初めて聞いた。でも、今はそこが重要ではない。

「あの、絵画の鑑賞や読書がお嫌いなんですか?」

「いいえ。作家も、画家も、いい職業だと思っています。でも、自分の子供がなるなら別なんです。売れるか売れないか、生計が立てられるか立てられないか。そんなギャンブルのような職業には関わってほしくないんです」

 親ならそういう心配をするのも当然だと思う。でも、頭ごなしすぎる。そのせいで二人とも家によりつかなくなってしまったことに気がついていない。自分の考えが一番正しいんだろう。
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