副社長と恋のような恋を
『なんで謝るの。謝るのはこっちのほうだよ。母がごめん。麻衣にひどいこと言ったんだろ』

「私だけではないです」

『迎えに行く。今どこにいるの?』

 駅の名前を言うと、すぐに行くと言って、副社長は電話を切った。二十分くらい待つと、副社長の車が見えた。横に停まり、助手席に乗り込んだ。

 副社長は無言で私の頭を撫でてから、車を発進させた。

「母さんになに言われた?」

「お兄さんが画家で海外にいて、明人さんは作家だったころがあって、お母さんは自分の息子が画家や作家であることが許せない。そしてその恋人や結婚相手がそういう職業についているのも許せない」

「母さんが俺たちに言っていることを、麻衣にも言ったんだな」

 車は行く予定だった美術館ではなく、副社長のマンションに向かっているようだった。

「啖呵って、なんて言ったの?」

「別れろって言われたんで、別れないって。勢いあまってつい。あと、結婚のこともちょっと匂わす程度に言いました。すみません」

「謝らない」

「だって、付き合ってもいないのに勝手なこと言っちゃったんで」

 副社長は特になにも言わなかった。

 車は思った通り、マンションの地下駐車場へ進んだ。車から降りて、エレベータで五階に上がり、部屋に通された。
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