副社長と恋のような恋を
「二人って、この仕事が出会いって感じがしない。別の出会いでしょ」

 村田先輩は鋭くて困る。私をじっと見つめる先輩の目に、うまく誤魔化せそうにない。ちらっと副社長を見る。

「そうだよ。俺と麻衣に共通の知人がいるんだ。その人を介して仕事には関係なく会ってるんだ」

「そうなんですね。酒井ちゃんって、意外と面食いだよね」

「そうですか?」

「そうだよ。副社長は群を抜いてスーパーイケメンだけど、高校のときに付き合ってた観覧車野郎。彼も結構イケメンだったもんね」

 その話はやめてほしい。前のクルージングディナーのとき、その話をして、副社長が不機嫌になったんだから。

「先輩、そんな昔の話はやめてくださいよ」

「観覧車野郎って、もしかして遊園地デートに誘って、観覧車で麻衣のことを振った男?」

「そうです」と言って、村田先輩は話を続ける。

「観覧車野郎、今なにしてるか知ってる? 大手銀行に勤めているらしいんだけど、バツ二だって。早めに別れておいてよかったね」

「うん」

 村田先輩たちが頼んだカニのサラダが来た。山岸さんは当たり前のように、サラダを自分のほうに寄せた。そして、黙々とサラダに乗っているカニを殻から外している。

 副社長のほうを見れば黒い笑みを浮かべながら、こっちを見ている。あとでなにか起こりそうと思った。
< 120 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop