副社長と恋のような恋を
「会社、休みなんだから気にしなくていいんじゃない」

 逃げる道を断たれた。付き合ってはいるから、別に問題はないけれど、私は好きだと言っていない。

 横でぷっと噴き出すような笑い声が聞こえた。

「麻衣、さっきから一人で百面相みたいになってる。言っとくけど、なんにもしないよ。ただ麻衣のことを抱きしめて眠りたいだけだから」

 隣を歩く副社長の顔を見れば、こっちを見て笑っている。そんなに楽しそうに笑って、そんなこと言われたら断れない。

「わかりました。抱き枕くらいにはなりますよ」

「抱き枕か。すごくぜいたくな抱き枕だ。今日はいい夢が見られそうだよ」

 マンションに着き、交代でシャワーを浴びた。パジャマ代わりにTシャツとハーフパンツを貸してもらった。サイズが大きくぶかぶかしていて、Tシャツはワンピース状態になっている。ハーフパンツもウェストが緩くて落ちそうだった。

 寝室に入るのは副社長が風邪を引いて看病したとき以来だ。ベッドの布団をめくり、副社長がこっちへおいでと促してくる。

「失礼します」

 空いているスペースに横になる。副社長も横になり、私のお腹あたりに腕を回した。

「空調、平気? 寒くない?」

 おやすみモードでかかっているクーラーの低い機械音が聞こえる。
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