副社長と恋のような恋を
 ホールド・パルスは、鼓動を抱きしめるという意味でつけた。パルスは鼓動や脈拍といった意味を持つ。幾重にも重なった線を、運命を可視化した線と見立てて、運命に抱きしめられた鼓動。そういうイメージをした。

 ザ・ラスト・ビートは最高の鼓動。ラストは最後という意味だが、ザをつけることで最上の、最新のという意味を持つようになる。

 終わりを決めなければ最後のものは最新のものになる。逆に終わりを決めてしまえば最新のものは最後のものになる。終わりと始まりは、まったく別のようなものに見えて、同じなのかもしれないと思った。

 ひたすらリズムを刻むムーブメントにも同じように終わりと始まりが表裏一体のように感じ、ザ・ラストとを付けた。

「私はザ・ラスト・ビートがいいと思います。音の感じがいいですよね」

 森本さんは腕時計を箱に戻しながら言った。

「俺もラストのほうがいいです。ホールド・パルスもいいんですけど、パルスって化学っぽいイメージが強い言葉に思えるんです」と山岸さんは言った。

 それに続いて村田先輩も口を開いた。

「私もそれ思った。もし、ホールドのほうを採用するならホールド・ビートとかホールド・ハートみたいな感じにして、パルスはやめたほうがいい気がする」
< 144 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop