副社長と恋のような恋を
 いろいろな商売方法があるんだなと思いつつ、小説のネタにしたいと思い、スマホに“レンタルスペース”とメモしておいた。

「あのさ、ちょっと気になってんだけど、副社長とケンカでもしてるの?」

「してませんよ、別に」

「そう。それにしては随分とよそよそしいよね。主に、酒井ちゃんが」

 図星だ。あの結婚式場以来、妙に副社長を意識してしまっている。ただ話す分には問題ないけれど、目を合わせたり、触れられたりすると変な反応をしてしまう。

 この前のデートでも、髪にごみがついているからと取ってくれようとした副社長の手を払ってしまった。一瞬、ショックを受けたような顔をしたけれど、びっくりさせちゃってごめんと副社長が逆に謝ってくれた。そんなことが何度も起こっている。

「あの、急に相手を意識しちゃうってなんなんでしょう」

「それは酒井ちゃんが副社長のことを急に意識しだしたってこと?」

「いや、別に私限定ではなく一般論として」

「それは好きになったからでしょ。それ以外ないよ」

 村田先輩はそんな当たり前のことわざわざ聞いてくるの、という表情で言った。

「意識しちゃったきっかけってなんなんだろう。これは独り言です」と、村田先輩はこっちを見ずに言った。
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