副社長と恋のような恋を
「タキシード姿を見て、隣に知らないウェディングドレス姿の人が立っていたら嫌だなと思って。独り言です」

 私も村田先輩に倣って、独り言を言ってみる。

「それって、かなり相手のこと好きだよ。だって、結婚式で隣に立ちたいって思ってるんだから。独り言、じゃなく、酒井ちゃんは副社長と付き合ってるんじゃないの?」

「付き合ってはいます。付き合おうって言われたとき、私自身が彼のことを好きかどうかあやふやで。だから、付き合いながら自分のことを知ってほしいって言われたんです」

「へえ、あの副社長がそういうこと言うんだ。あれだけのスペックを持っていればさ、押し倒すでも、プレゼント攻めでも、豪華なデートでも、なんでもできるだろうに。自分の気持ちは押し付けず、身近に置いてゆっくり恋を育むなんて、ロマンチストなんだ。でも、ある意味自信家。いつかは自分のことを好きになってくれるって確信があるから、そんなのんびりなことをしていられるんだよね」

 そうか、副社長はずっと待っているんだ。私はどこかで最初に始まった関係である、婚約者ごっこ、疑似恋愛という感覚が抜けていない。だから、自分の感情と折り合いがつかないのかもしれない。

「お待たせしました」
< 149 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop