副社長と恋のような恋を
 少し浮かない顔をしている副社長の頬を指で突っついた。

「うわ、急になんだよ」

「なんとなく」

「なんだよ、それ」と言って、副社長は笑った。

 最近、思うことがある。副社長は真面目な顔はかっこいい。でも、少し力の抜けた感じに笑うとすごくかわいい。だから私はその笑顔が見たくて、あの手この手で副社長を笑顔にしようとする。それが楽しくもあり、幸せなのだ。


 日曜日、副社長と一緒に天ぷらの専門店に来た。お兄さんはまだ来ていな。

 そわそわする私に、そんなに緊張しなくても大丈夫だよと副社長は言った。

「わかってるんだけど。こればかりはどうしようもない」

「ほら、お茶飲んで」

 副社長からお茶を受け取り、口を潤す。さすが天ぷら専門店、お茶も美味しかった。

「ごめん、おまたせ」

 その声とともに現れたのは、副社長と同じくらいの背格好に、丸眼鏡をかけた男の人だった。口の形が似ていて、お兄さんだと思った。

「兄さん」

 私と副社長はイスから立ち上がった。

「久しぶり、明人。元気そうだな」

「兄さんこそ。こちらが酒井麻衣さん」

 お兄さんは私のほうを向き「初めまして、兄の雅人(まさと)です」と言って、手を差し出した。

「初めまして、酒井麻衣と申します」
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