副社長と恋のような恋を
 窓に目線を戻すと、彼が離れていったのを感じた。適度な距離になったところで、彼にお礼を言う。そして彼はラウンジまで送り届けてくれた。

「君の名前、教えてくれませんか?」

「ペンネーム、それとも本名」

「それは君に任せるよ」

「どっちも教えられません。きっと私とあなたがもう一度出会うことなんてないでしょ。だから名前なんていらない。私は誕生日を迎える度に、ぼんやりとあなたを思い出すよ、きっと。名前も知らない男性を。ちょっと素敵じゃありませんか」

 彼は困ったように微笑んだ。

「そんなふうに言われると、聞けないじゃないか。じゃあ、もしもう一度会えたら、君のペンネームを俺が言い当てるよ」

「それ、素敵ですね。頑張って私を見つけてください。できれば私の小説も読んでくれると嬉しいです」

「ああ、小説も読むよ。これから必死で探すから」

「今日はありがとうございました。それからカクテルごちそうさまです。きれいな景色をありがとうございます」

 私が深々と頭を下げる。顔を上げると、彼はたいしたことじゃないよと言った。

「さようなら」

 彼がそう言えば、私もさようならと返す。彼に背を向けて、ラウンジの自動ドアを潜り抜けた。
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