副社長と恋のような恋を
 私は差し出された手を握り返した。

「挨拶も終わったし、座ろうか」

 副社長がそう言い、私たちはイスに座った。近くを通りかかった店員さんに、食事を運んでもらうように頼んだ。

「久しぶりの日本食でうれしよ」

 お兄さんは笑顔でそう言った。その顔は副社長とよく似ていた。

「それはよかった。麻衣が言ってくれたんだ、久しぶりの日本ならちゃんとした和食が食べたいんじゃないって」

「へえ。明人、表情が柔らかくなった。麻衣さんのおかげかな」

「そうかな。自分ではよくわからないけど」

「うん、今のほうがいいよ。いつも微笑んでるんだけど、どす黒いオーラをまとっていたから」

 お兄さんの言葉に、思わず笑ってしまった。すると横に座っている副社長が、なんでそこで笑うんだよと言ってきた。

「いや、どす黒いオーラって昔からだったんだ、と思って」

「あれ、今もどす黒いオーラ出すんだ」と言って、お兄さんも笑い出した。

「ちょっと、ふたりともなんだよ。そのどす黒いオーラって」

 副社長はこまったような顔で聞いてきた。

「明人、あれ、無意識にだしてたのか。僕はてっきり、コントロールしているのかと思ったよ」

 驚きながら話すお兄さんに、副社長はだからオーラってなにと聞いていた。
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