副社長と恋のような恋を
「ありがとう、麻衣さん」

 お兄さんは、副社長と同じ微笑みで「ありがとう」と言った。副社長を見ると、耳や首が少し赤くなっていた。

 お兄さんとの食事は和やかに進んだ。副社長の小さいころの話や絵の話などをしてくれた。二人は仲が良く、家族といる副社長はすぐに困ったり、焦ったり忙しかった。新たな一面を見ることができてよかったと思った。

「じゃあ、ここで」

 そう言うとお兄さんは、ポケットからスマホを出した。

 駅に向かう通り道に、お兄さんが泊まっているホテルがあり、その前で私たちは別れることになった。

「麻衣さん、さっき話した画集のことで連絡取りたいから、連絡先きいてもいいかな? というか、明人いい?」

「いいよ」

 私はバックからスマホを取り出し、お兄さんと連絡先を交換した。

「今日はとても楽しかった。麻衣さんにも会えてよかったです」

「私も雅人さんとお話しできてたのしかったです」と言って、私は軽く頭を下げた。

「日本を離れるときは、連絡して。今日みたいに食事をする時間が取れるかはわからないけど、見送りくらいはしたいから」

「わかった」

 私と副社長はお兄さんがホテルの中に入っていくのを見送った。

「俺たちも帰ろうか」

「うん」
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