副社長と恋のような恋を
『大丈夫だよ。あさってまた戻らなくちゃいけないから荷物の整理をしていたところ』

 私はなるべく手短に終わらせますね、と断りを入れてから本題を話し始めた。

「あの、お聞きしたいことがあるんです。明人さんの部屋に飾ってある絵。お兄さんが描かれたものなんですよね。いつごろプレゼントしたものなんですか?」

『えっと、あれは僕が高校の時に描いたもので。それで初めて海外での仕事をしに行くために、長期で家を離れる時。そう、その時に明人にあげたんだよ』

 お兄さんは思い出しながら、ゆっくりと説明してくれた。

「そうですか。絵をあげたときって、明人さんはいくつでしたか?」

『高三だよ』

「あの絵の裏になにか書きましたか?」

『いや、なにも書いてないよ』

 あの文字は副社長が書いたものなんだ。

『どうしてこんな質問するの?』

「いきなり変な質問をしてしまってすみません。実は、明人さんが作家だったころのペンネームを探しているんです。ただ、なかなか見つけられなくて。それで雅人さんから情報を得ようと思いまして」

『そういうことか。もしよければ教えるけど』

「いえ、それはいいです。自分でみつけたいんで。あの、明人さんには内緒にしてくださいね。雅人さんにちょっと助けてもらったことは」

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