副社長と恋のような恋を
 私はなるべく軽い口調でそう言った。

『わかった』

「忙しいときにありがとうございました。失礼します」

 お兄さんはまた三人で食事をしようと言って、電話を切った。

 スマホをテーブルに置き、ため息をついた。人って、人を疑うと嫌な人間になるんだなと思った。お兄さんに嘘は言っていないけれど、感情は嘘をついている。そのことが自分で嫌になった。

 ◇◇◇

 仕事納めとなり、正月休みは実家に帰ることにした。副社長は仕事の話を含めてお兄さんと話すことがあるらしく、正月休みはお兄さんが暮らす海外へ行くことになっていた。おかげで副社長と会うことをさけることができて、ほっとした。

 その代わり、私の誕生日にふたりで会うことになっている。私はここで、すべてに決着をつけようと決めていた。

 誕生日、私は初めて副社長と出会ったあのバーで待ち合わせをした。そしてあの時と同じようにカクテルは雪街月(ゆきまちづき)を頼んだ。

「麻衣、お待たせ」

 副社長は私の隣に座った。

「お疲れさまです」

「お疲れ。都築先生を見るの久しぶりだな」と言った副社長は、少し困ったような顔をした。でもその表情はすぐに消え「そのカクテルなに?」と聞いてきた。
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