副社長と恋のような恋を
雪街月と答えると、副社長は俺もそれにしようと言って、バーテンダーに頼んだ。
「年末年始、バタバタしてたからこうやって会うのも久しぶりだよね」
少し力の抜けた笑顔で副社長は言った。今、その笑顔をしてほしくなかった。
バーテンダーが雪街月を持ってきた。副社長はそれに口をつけて、美味しいと一言言った。
「明人さん、見つけましたよ。明人さんの作家時代のペンネーム」
「えっ、本当?」
「はい。答え合わせしてもいいですか?」
「もちろん」
私はバックの中から一冊の本を取り出した。それを副社長の前に置いた。
「萩野明(はぎのあきら)さん。私、あなたの大ファンです。あなたの小説がきっかけで作家になりました」
「この本、よく持ってたね」
私が差し出した本を副社長は懐かしそうに眺めた。
その本の表紙は、副社長のリビングに飾られているあの絵だ。小説のタイトルは『夏の移り香』。副社長のデビュー作。あの絵に裏に書かれていた一節がこの小説の中に出てくる。
この小説の表紙は初版だけがお兄さんの絵を使われている。発売された当初はそれほど話題にならなかった。でも、表紙を変えて再販したらヒットしたのだ。だからこのお兄さんの絵が使われているバージョンは古本でしか手に入らない。私があのお兄さんの絵に見覚えがあって当然なんだ。
「年末年始、バタバタしてたからこうやって会うのも久しぶりだよね」
少し力の抜けた笑顔で副社長は言った。今、その笑顔をしてほしくなかった。
バーテンダーが雪街月を持ってきた。副社長はそれに口をつけて、美味しいと一言言った。
「明人さん、見つけましたよ。明人さんの作家時代のペンネーム」
「えっ、本当?」
「はい。答え合わせしてもいいですか?」
「もちろん」
私はバックの中から一冊の本を取り出した。それを副社長の前に置いた。
「萩野明(はぎのあきら)さん。私、あなたの大ファンです。あなたの小説がきっかけで作家になりました」
「この本、よく持ってたね」
私が差し出した本を副社長は懐かしそうに眺めた。
その本の表紙は、副社長のリビングに飾られているあの絵だ。小説のタイトルは『夏の移り香』。副社長のデビュー作。あの絵に裏に書かれていた一節がこの小説の中に出てくる。
この小説の表紙は初版だけがお兄さんの絵を使われている。発売された当初はそれほど話題にならなかった。でも、表紙を変えて再販したらヒットしたのだ。だからこのお兄さんの絵が使われているバージョンは古本でしか手に入らない。私があのお兄さんの絵に見覚えがあって当然なんだ。