副社長と恋のような恋を
「この表紙でわかっちゃったんだ」と言って、副社長は雪街月を飲んだ。

「違います。明人さんが萩野明だってわかったのは、井上編集長と知り合いだったからです。年末、出版社で二人が話しているところに出くわして、立ち聞きしちゃったんです。すいません、失礼なことをして」

 隣にいる副社長を見たら、すべてを話すことができないような気がして、窓の外を見つめた。

「ちょうど一年前、ここで出会ったのって偶然じゃなかったんですね。私、あの日、井上編集長に会っているんです。そのとき、編集長はイギリスから帰ってきた友人からもらったって、おしゃれな紙袋を持っていたんです。その友人が副社長ですよね。副社長は日本に帰国する前はイギリスにいたんですよね。それに編集長がわざわざ、私にチョコレートを出すように頼んだのは、私がこのバーに来ていることを確認するため」

 私は一息ついて、カクテルを飲んだ。

「萩野明の本、全部もっているんです、私。井上編集長に初めて会ったとき、そのことを話したんです。そしたら自分は萩野明の担当編集だったことがあるって、編集長言ってたんですよ。編集長と明人さんは連絡を取り合うくらいの友人なんでしょ」

 残り少なくなったカクテルを飲み干す。軽く息を吐きだし、話を続けた。
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