副社長と恋のような恋を
「明人さんは最初から都築麻衣の恋愛小説が目当てだった。私の予想では井上編集長に恋愛小説を書いたら話題になる作家はいないかって相談をした。そこで、ちょうどクロノスに恋愛小説を書いたことのなく、四苦八苦しながら書いている若手の作家がいることを知った。これは使える。偶然を装って出会い、恋愛小説が書けるように彼氏になった。ご立派ですね、仕事にためにそこまでして」

　ここまで言い切ると涙が溢れてきた。私はずっと副社長の手の上で転がされていた。そう思うと悲しいような悔しいような気持ちになる。

「麻衣、ここで出会ったのは偶然じゃない。井上さんに都築麻衣のことを教えてもらった。確かに、最初はａｒｋのために宣伝になるような小説を書いてもらうために付き合っていた。でも、途中から仕事のことは関係なく、麻衣のことを好きになったんだ。信じてくれ」

　こんな必死な声を初めて聞いた。でも、私は副社長の顔を見ることはできなかった。

「好きなんて嘘だよ。だって、一回も私に好きだって言ってくれなかったじゃない。私ばっかり好きって言ってた。かわいいや大事だって言っても好きだって言ってくれなかった。なんで、今になって好きなんて言うの」

　手の甲で涙を拭い、コートとバッグを手に持った。

「待って、話は終わってない。こっち向いて」

　副社長は私の腕を掴んだ。私はゆっくりと副社長のほうを見た。副社長は射貫くような強い目で私を見ていた。信じて、と言っている。
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