副社長と恋のような恋を
 五月に入り、とうとうarkの新作が発売された。期間限定の発売とあって売れ行きは好調だ。

 都築麻衣の恋愛小説がSNSで話題となっている。ネット上で、無料で読めるというのもよかったのかもしれない。

 そして腕時計と小説を際立たせてくれるウェブサイト。小説ページを開くと花弁のように文字がパラパラと降ってきて、それは降り積もる。その積もった言葉の中から腕時計が出てくる。腕時計クリックすると、腕時計の針がグルグルと回りだす。そして積もった言葉がきれいに画面上に並び、小説が読めるというデザインになっている。小説の背景には副社長がモデルを務めたあの写真が使われていた。

 arkと小説という大きな仕事を終え、久しぶりにテレビを見ながらゴロゴロしていた。

 インターフォンが鳴り、重い腰を持ち上げて玄関に行く。ドアスコープをのぞくと宅配便の人がいた。インターフォン越しに出ると、やっぱり宅配便だった。

 荷物を受け取り、急いで梱包を解いた。段ボールの中には八月に発売される小説が入っていた。表紙にはタイトルと都築麻衣の文字が躍る。本を開けば新しい紙の匂いがした。

 その本に小さなメモをつけ、封筒に入れる。そして、彼へ送ることにした。
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