副社長と恋のような恋を
 ◇◇◇

 彼は来るだろうかと思いながら、天使のモニュメントをぼんやり眺めた。前、上から眺めたときは雪だるまのモニュメントもあったけれど、今は夏だから撤去されているのだろう。

 スマホを取り出し、萩野明の小説を読み返した。小説はどれも同じ展開を辿るのに、ドキドキしたり、ハラハラしたりする。彼の才能は健在なんだなと思う。

「麻衣」

 声のほうを向くと、副社長が小走りにやってきた。

「ちゃんと来てくれたんですね」

「来ないって選択肢は俺にはないよ」

 少し息の上がっている副社長は、息を整えるように深く深呼吸をした。

「小説、毎回読んでました。女の子のマフラーが毎回どんなふうに出来上がるのか楽しみでした」

「ありがとう。久しぶりに書いた小説だったから、少し自信はなかったんだけれど、そう言ってもらえてうれしいよ」

 お互い無言になった。久しぶりに副社長の顔をしっかり見た。少し、痩せたように思える。

「私の小説、読んでくれました?」

「うん。読んだ。ウェブ版もいいけど、加筆修正されたもののほうが心理描写がより丁寧になって、主人公の恋を応援したくなった」

「ねえ、書き下ろし小説も読んでくれた?」

 私が聞くと、副社長はカバンから単行本を出した。そしてカバーを外す。
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