副社長と恋のような恋を
「おもしろいことをするね。カバー下に書き下ろしを載せるなんて」

 これこそ角田さんが言っていた仕掛けだ。別に真新しい手法ではないけれど、私の小説でこういうお遊びをしたことは一度もない。

 私のファンの人でも気づかない人がいるかもしれない。もしかしたら、五年後、十年後に気づくかもしれない。そんな仕掛けをするのは、私としてはかなりの挑戦だった。

「書き下ろしを読んでの感想は?」

「麻衣にすごく会いたくなった。こんなこと言える立場じゃないこともわかっている。でも、この書き下ろしを読んで、少しだけ希望を持った。麻衣、ちゃんと謝らせてほしい」

 天使のモニュメントの中に仕込まれているライトが白、赤、青、黄色の順に色が変わる。その光が副社長の顔を照らす。青い光に照らされたとき、副社長はごめんと言った。

「本当にごめん。だますようなことをして。最初は君にいい小説を書けるきっかけを作れれば、と思っていた。でも、麻衣と話をするとすごく楽しくて、会えば会うほど麻衣のことを好きになる自分がいた。出会った日のことは、話さなきゃいけないと思っていた。でも軽蔑されるのも、嫌われるのも怖くて、それを隠したまま付き合うことを選んでしまった。本当にごめん」
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