副社長と恋のような恋を
 副社長は体を九十度に曲げて、深く頭を下げた。

「明人さん、顔上げて」

 副社長はゆっくりと体を起こした。

「明人さんが熱を出して、私が初めて明人さんのマンションにお邪魔したときにね、私の本を見たの。そこに書かれた感想を読んですごくうれしかった。だから今回の本にもちゃんと感想を書いたメモを挟んでね。それで勝手に見て喜ぶから。一生にうちであと何冊小説を発表できるかわからないけれど、私が小説家をやめるまで、ずっと感想を書くんだからね」

「麻衣、それって」

 私はただ頷いた。すると副社長は微笑んでくれた。

「こっちに来て」

 副社長はそう言って、私の手を握った。そして、そのままホテルに向かって歩き出した。エントランスを通り、ちょうど来ていたエレベータに乗った。そしてジャケットの胸ポケットからカードキーを出す。そしてカードの差し込み口にカードを差し込んだ。

「なんでエグゼクティブフロアのカードキーを持ってるの?」

「部屋を取ったから」

 何を考えているんだろう、副社長は。どうなるかわからない相手のために、こんな高い部屋を取っているんだろう。
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